ローパスフィルター(低域通過フィルタ:LPF)は電子回路設計において最も頻繁に使われるフィルタの一つであり、カットオフ周波数以下の信号を通過させ、それ以上の高周波成分を減衰させる機能を持ちます。
音声信号処理・センサー信号のノイズ除去・ADコンバーター前段のアンチエイリアシングフィルタなど、ローパスフィルターの応用は極めて広く、カットオフ周波数の適切な設定が性能を左右します。
本記事では、ローパスフィルターのカットオフ周波数の定義・RCおよびRLC回路の特性・設計方法・実用的な応用について詳しく解説していきます。
目次
ローパスフィルターのカットオフ周波数の定義と特性
それではまず、ローパスフィルターのカットオフ周波数の定義と周波数特性について解説していきます。
ローパスフィルターのカットオフ周波数(fc)は、入力に対して出力電力が半分(-3dB)になる周波数であり、通過域と阻止域の境界を定義します。
ローパスフィルターの周波数応答の特徴
理想的なローパスフィルターは、fc以下では利得が1(0dB)、fc以上では利得がゼロという矩形の特性を持ちますが、実際の回路では遷移域が存在します。
1次RCフィルターでは、fcを超えた周波数では-20 dB/decade(10倍の周波数増加で-20 dBの減衰)の緩やかな傾きで信号が減衰します。
2次フィルターでは-40 dB/decade、n次フィルターでは-20n dB/decadeという急峻な特性が得られます。
位相特性とカットオフ周波数の関係
ローパスフィルターは振幅特性だけでなく、位相特性にも影響を与えます。
1次RCフィルターでは、カットオフ周波数において位相が-45°遅れます。
カットオフ周波数より十分低い周波数では位相遅れはほぼゼロ、十分高い周波数では-90°に近づくという特性があります。
位相遅れが問題となる制御系・通信系では、群遅延特性が均一なベッセル型フィルターが選ばれることがあります。
ローパスフィルターの設計手順
続いては、ローパスフィルターの具体的な設計手順について確認していきます。
設計仕様の決定
ローパスフィルター設計の最初のステップは設計仕様の明確化です。
ローパスフィルター設計仕様の主要項目
①通過域の上限周波数(カットオフ周波数:fc)
②通過域での最大減衰量(例:fcまでは-3 dB以内)
③阻止域の開始周波数と必要減衰量(例:10 fcで-40 dB以上)
④回路の入力・出力インピーダンス
⑤信号の周波数・電圧・ノイズ成分の周波数範囲
フィルター次数とタイプの選定
設計仕様の通過域・阻止域の要求から必要なフィルター次数を決定します。
バターワース型は通過域が最大フラット・チェビシェフ型は急峻なロールオフ・ベッセル型は位相特性が均一というそれぞれの特徴から、用途に合わせて選択します。
バターワース型は汎用性が高く設計も比較的シンプルなため、特別な要求がない場合の最初の選択肢として適しています。
RCフィルターの部品定数の決定
1次RCローパスフィルターの設計例
目標:fc = 1 kHz の1次ローパスフィルター
設計手順:
①標準値のコンデンサーを選択:C = 10 nF
②抵抗値を逆算:R = 1/(2π×fc×C) = 1/(2π×1000×10×10⁻⁹) ≈ 15.9 kΩ
③標準抵抗値を選択:R = 16 kΩ(E24系列)
④実際のfc確認:fc = 1/(2π×16000×10×10⁻⁹) ≈ 995 Hz(設計値の約0.5%以内)
ローパスフィルターの実用的な応用場面
続いては、ローパスフィルターが実際に使われる代表的な応用場面について確認していきます。
ADコンバーター前段のアンチエイリアシングフィルター
アナログ信号をデジタル変換するADコンバーター(ADC)の前段には、サンプリング周波数の半分(ナイキスト周波数)以上の成分を除去するアンチエイリアシングフィルターが必要です。
カットオフ周波数をナイキスト周波数以下に設定したローパスフィルターがこの役割を担い、エイリアシング(折り返し歪み)によるデジタルデータの誤りを防ぎます。
電源回路のリップルフィルター
スイッチング電源や整流回路の出力には交流リップル成分が含まれており、LCローパスフィルターによってリップルを直流成分から分離・除去することが電源回路設計の基本です。
まとめ
本記事では、ローパスフィルターのカットオフ周波数の定義・周波数特性・位相特性・設計手順・実用的な応用について詳しく解説しました。
ローパスフィルターのカットオフ周波数は-3dBポイントで定義され、1次RCフィルターでfc = 1/(2πRC)で計算されます。
フィルタータイプ(バターワース・チェビシェフ・ベッセル)の選定と次数決定が設計仕様達成の鍵となります。
ADCのアンチエイリアシング・電源リップル除去・音声信号処理など多くの実用場面でローパスフィルターの適切な設計が性能と品質を左右するでしょう。