電磁気学を勉強していると、必ずと言っていいほど登場するのが真空の透磁率という言葉です。

記号でいうとμ0(ミューゼロ)と表記されることが多く、教科書にはさらりと数値だけが書かれていることも少なくありません。

ですが、その意味や由来まできちんと説明できる人は意外と少ないものです。

真空の透磁率は、アンペールの法則やビオ・サバールの法則、さらには光速や真空のインピーダンスとも深く関わる、電磁気学の土台となる物理定数です。

本記事では、真空の透磁率とは何かという基本的な意味から、具体的な値、SI単位系での扱われ方、そして関連する公式まで、順を追ってわかりやすく解説していきます。

物理を学び始めた高校生から、大学で電磁気学を学ぶ方まで、幅広く参考にしていただける内容を目指しました。

それでは、真空の透磁率という奥深いテーマを一緒に見ていきましょう。

真空の透磁率とは要するに何か

それではまず真空の透磁率とは何かという結論部分について解説していきます。

真空の透磁率とは何かを一言で

真空の透磁率とは、簡単にいえば真空という空間が磁場をどれだけ通しやすいかを表す物理定数です。

電流が流れると、その周りには磁場が発生します。

このとき、電流の大きさと発生する磁場の強さを結びつける役割を果たしているのが、真空の透磁率なのです。

つまり真空の透磁率は、電流と磁場という二つの現象をつなぐ橋渡し役といえるでしょう。

真空の透磁率の値をざっくり確認

真空の透磁率の値は、およそ1.25663706212×10のマイナス6乗 ニュートン毎アンペアの2乗です。

昔の教科書では、4π×10のマイナス7乗という非常にきれいな数値で紹介されていました。

この二つの数値はほぼ同じ値になりますが、実は成り立ちが異なります。

その違いについては、次の見出し以降で詳しく確認していきます。

なぜ真空の透磁率が重要なのか

真空の透磁率が重要視される理由は、電磁気学の根幹をなす複数の法則に登場するからです。

電流が作る磁場の強さを求めるアンペールの法則、そして電磁波の速度を決める公式にも、この定数が欠かせません。

さらに、光速や真空の誘電率とも密接な関係を持っています。

真空の透磁率は、電気と磁気、そして光の速さまでをつなぐ、電磁気学における縁の下の力持ちのような存在です。

真空の透磁率の定義

続いては真空の透磁率の定義を確認していきます。

透磁率の基本的な意味

そもそも透磁率とは、ある物質の中を磁場がどれだけ通りやすいかを表す量のことです。

鉄のような磁性体は透磁率が非常に高く、磁場を強く通す性質を持っています。

一方で、真空や空気はほとんど磁場を強めたり弱めたりしません。

その真空における透磁率の基準となる値が、真空の透磁率なのです。

真空の透磁率の歴史的定義(2019年以前)

2019年より前は、真空の透磁率は定義定数として扱われていました。

具体的には、アンペアという電流の単位を定義するために、真空の透磁率の値を4π×10のマイナス7乗ニュートン毎アンペアの2乗と決めていたのです。

μ0 = 4π×10のマイナス7乗 N/A2(2019年以前の定義値)

この値は測定によって求められたものではなく、あくまで人間が便宜的に定めた数値でした。

そのため、当時の真空の透磁率には誤差というものが存在しなかったのです。

SI単位系改定後の真空の透磁率の位置づけ

ところが2019年、国際単位系(SI)の大幅な改定が行われました。

この改定により、アンペアの定義が電気素量という物理定数を基準にしたものへと変更されたのです。

その結果、真空の透磁率はもはや定義値ではなくなり、実験によって測定される定数へと立場が変わりました。

とはいえ、その値は従来の4π×10のマイナス7乗と非常に近く、日常的な計算においてはほとんど差を感じることはないでしょう。

物理定数の世界にも、時代とともに扱い方が変わるものがあるとは、なんとも興味深い話です。

真空の透磁率の値とSI単位系

続いては真空の透磁率の値とSI単位系での表し方を確認していきます。

真空の透磁率の数値

現在採用されている真空の透磁率の値は、以下のとおりです。

μ0 = 1.25663706212×10のマイナス6乗 N/A2(誤差1.9×10のマイナス16乗を含む)

非常に小さな誤差の範囲ではあるものの、完全にゼロではないという点が、2019年以降の大きな特徴といえるでしょう。

単位の種類(N/A²、H/m、T·m/A)

真空の透磁率の単位は、実は一つだけではありません。

同じ物理量であっても、複数の単位で表現できるのです。

代表的なものとして、ニュートン毎アンペアの2乗(N/A2)、ヘンリー毎メートル(H/m)、テスラ・メートル毎アンペア(T・m/A)の3つが挙げられます。

これらはすべて次元的に等価であり、使う分野や文脈によって使い分けられています。

単位換算表

それぞれの単位の対応関係を、以下の表にまとめました。

単位表記 読み方 主に使われる分野
N/A2 ニュートン毎アンペア毎アンペア 力学的な計算
H/m ヘンリー毎メートル 回路理論やインダクタンス計算
T・m/A テスラ・メートル毎アンペア 磁場の強さに関する計算
kg・m/(A2・s2) キログラム・メートル毎アンペア2秒2 基本単位による表現

このように、同じ真空の透磁率でも表記が変わるだけで、印象がずいぶん変わって見えるものです。

どの単位を使うべきか迷ったときは、扱っている式の中でどの単位系が使われているかを確認するとよいでしょう。

真空の透磁率と関連する物理定数

続いては真空の透磁率と深く関わる、その他の物理定数について確認していきます。

真空の誘電率との関係

真空の透磁率とセットで語られることが多いのが、真空の誘電率(ε0)です。

透磁率が磁場の通りやすさを表すのに対し、誘電率は電場の通りやすさを表す量になります。

この二つは、電気と磁気という一見別々の現象を結びつける重要なペアといえるでしょう。

光速との関係式

真空の透磁率と真空の誘電率は、実は光速ともつながっています。

c = 1 / √(μ0 × ε0)

この式は、電磁波の速度である光速が、透磁率と誘電率という2つの物理定数から導き出せることを示しています。

マクスウェルが電磁波の存在を理論的に予言できたのも、この関係式があったからこそなのです。

電気と磁気の性質だけから光の速さが計算できるとは、なんとも壮大な話ではないでしょうか。

真空のインピーダンスとの関係

あまり聞き慣れないかもしれませんが、真空にもインピーダンスという概念が存在します。

これは真空の特性インピーダンスと呼ばれ、電磁波が空間を伝わる際の抵抗のような役割を果たすものです。

Z0 = μ0 × c ≒ 約377Ω

アンテナ設計や電磁波の伝搬計算などの分野では、このZ0という値が頻繁に登場します。

真空の透磁率が使われる場面・関連公式

続いては真空の透磁率が実際にどのような公式で使われているのかを確認していきます。

アンペールの法則

電流の周りに発生する磁場の強さを求める際、真空の透磁率は欠かせない存在です。

B = μ0 × I /(2π × r)

これは、直線電流の周りにできる磁束密度を求めるアンペールの法則から導かれる式です。

電流Iが大きいほど、また導線からの距離rが近いほど、磁場が強くなることがわかります。

ビオ・サバールの法則

電流素片が作る微小な磁場を計算する際にも、真空の透磁率は登場します。

dB =(μ0 / 4π)×(I × dl × sinθ / r2)

この法則は、モーターやコイルの磁場設計など、実用的な場面でも幅広く活用されています。

複雑に見える式かもしれませんが、根本にあるのは真空の透磁率という一つの定数なのです。

平行導線間に働く力の公式

二本の平行な導線に電流を流すと、互いに力を及ぼし合うことをご存知でしょうか。

F / L = μ0 × I1 × I2 /(2π × d)

この現象を利用して、かつてはアンペアという単位そのものが定義されていました。

電流同士が引き合ったり反発し合ったりする、直感的には少し不思議な現象ですが、この根底にも真空の透磁率が働いているのです。

真空の透磁率に関するよくある疑問

続いては真空の透磁率に関して、多くの方が疑問に感じやすいポイントを確認していきます。

真空の透磁率と比透磁率の違い

真空の透磁率とよく混同されやすい言葉に、比透磁率があります。

比透磁率とは、ある物質の透磁率が真空の透磁率の何倍にあたるかを示す、単位を持たない比率のことです。

鉄などの強磁性体では、比透磁率が数百から数千という非常に大きな値になることもあります。

つまり真空の透磁率は基準値であり、比透磁率はそこからの倍率を表す指標といえるでしょう。

真空の透磁率はなぜ4π×10のマイナス7乗だったのか

2019年以前、なぜ真空の透磁率が4π×10のマイナス7乗というきれいな数値だったのか、疑問に思う方も多いはずです。

その理由は単純明快で、計算をしやすくするために人為的にそう定義していたからです。

円周率πが含まれているのも偶然ではなく、アンペールの法則やビオ・サバールの法則に円周率が登場することを見越した設計だったのです。

いわば、後の計算がスムーズになるよう、あらかじめ調整された数値だったといえるでしょう。

単位はSI以外にもあるのか

真空の透磁率は基本的にSI単位系で扱われますが、物理学の分野によっては別の単位系が使われることもあります。

例えばCGS単位系(ガウス単位系)では、真空の透磁率は1という無次元の値として扱われる場合があります。

そのため、参考書や論文を読む際は、どちらの単位系が採用されているかを最初に確認することが大切です。

単位系が変わると数値も定義も変わってしまうため、真空の透磁率を扱うときは常にSI単位系かどうかを意識する習慣をつけておくと安心です。

まとめ

今回は、真空の透磁率とはどのようなものかについて、定義や値、SI単位系、そして関連する公式まで幅広く解説してきました。

真空の透磁率とは、真空という空間における電流と磁場の関係を結びつける物理定数です。

2019年以前は4π×10のマイナス7乗という定義値でしたが、SI単位系の改定後は実験的に測定される値へと変わりました。

現在の値はおよそ1.25663706212×10のマイナス6乗ニュートン毎アンペアの2乗であり、以前の値とほとんど変わらない点も特徴的です。

また、真空の誘電率や光速、真空のインピーダンスとも深くつながっており、アンペールの法則やビオ・サバールの法則といった具体的な計算にも欠かせません。

一見とっつきにくく感じる真空の透磁率ですが、その正体を知ってしまえば、電磁気学全体の理解がぐっと深まるはずです。

ぜひ本記事を参考に、真空の透磁率という奥深い物理定数への理解を深めていただければ幸いです。

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