伝熱工学や熱設計の場面で欠かせないビオ数の計算について、「どの式を使えばいいのか」「代表長さはどう決めるのか」といった疑問を持つ方は多いでしょう。
ビオ数の計算自体は公式を知れば難しくありませんが、熱伝達率・熱伝導率・代表長さの各パラメータをどのように取得・設定するかが実用上の重要ポイントです。
本記事では、ビオ数の計算式と公式の確認から始まり、各パラメータの求め方・形状別の代表長さの設定・境界条件との関係・集中定数系への適用判定まで、実践的に解説していきます。
伝熱工学の学習者から設計現場の技術者まで、幅広い方々に役立つ内容です。
目次
ビオ数の計算式と公式:まず基本を押さえる
それではまず、ビオ数の計算式と公式について基本から解説していきます。
ビオ数の基本公式はシンプルですが、各変数の意味と取り扱いをしっかり理解することが精度の高い計算につながります。
ビオ数の基本公式:Bi = h × Lc / λ
h:対流熱伝達率(W/m²・K)、Lc:代表長さ(m)、λ:固体の熱伝導率(W/m・K)
この3つのパラメータを正確に把握することが、ビオ数計算の核心です。
この公式において重要なのは、λ が「固体の」熱伝導率である点です。
流体の熱伝導率を誤って使用すると、ヌセルト数の計算になってしまうため注意が必要です。
また、代表長さ(Lc)は形状と解析目的によって異なる定義が使われるため、使用する教科書や規格の定義を確認することが重要です。
熱伝達率・熱伝導率・代表長さの求め方
続いては、ビオ数計算に必要な各パラメータの求め方を確認していきます。
ビオ数の計算精度は、各パラメータの精度に直接依存します。
対流熱伝達率(h)の求め方
対流熱伝達率(h)は、流体と固体表面の間の熱移動のしやすさを示す係数です。
理論式や経験式(ヌセルト数相関式)から求めることが多く、具体的な手順は次のとおりです。
対流熱伝達率の求め方(ヌセルト数相関式を用いる方法)
Step1:流れのレイノルズ数 Re = ρ × V × L / μ を計算する
Step2:プラントル数 Pr = cp × μ / λ_fluid を確認する
Step3:適切な Nu 相関式(例:平板層流 Nu = 0.664 × Re^0.5 × Pr^(1/3))でヌセルト数を求める
Step4:h = Nu × λ_fluid / L(λ_fluid:流体の熱伝導率)で h を計算する
強制対流・自然対流・沸騰・凝縮といった対流形態によって使用する相関式が異なります。
工学的な概算では、先述の表(空気自然対流:5〜25 W/m²・K、水強制対流:200〜15000 W/m²・K など)の代表値を使用することもあります。
固体の熱伝導率(λ)の取得
固体の熱伝導率は材料固有の物性値であり、文献・データブック・JIS規格などから取得します。
主要な材料の熱伝導率の目安は次のとおりです。
| 材料 | 熱伝導率 λ(W/m・K)の目安 |
|---|---|
| 銅 | 約 390 |
| アルミニウム | 約 200 |
| 鉄・鋼 | 約 45〜80 |
| ステンレス鋼 | 約 14〜20 |
| シリコン(半導体) | 約 150 |
| ガラス | 約 0.8〜1.1 |
| コンクリート | 約 1.0〜1.8 |
| 断熱材(グラスウール) | 約 0.03〜0.05 |
熱伝導率は温度依存性を持つ場合があり、特に高温域では補正が必要になります。
精度の高い解析では、温度の関数として熱伝導率を扱う必要があります。
代表長さ(Lc)の形状別の定義
代表長さの定義は固体の形状によって異なります。
集中定数法では Lc = V / As(体積 / 表面積)が使われますが、解析の目的によっては別の定義も用いられます。
形状別の代表長さ(集中定数法の場合)
無限平板(厚さ 2L、両面伝熱):Lc = L(半厚さ)
無限平板(厚さ L、片面断熱・片面伝熱):Lc = L
無限円柱(半径 r):Lc = r / 2
球(半径 r):Lc = r / 3
正方形板(辺長 a、厚さ b、b ≪ a):Lc ≈ b / 2
ヒーズラー図を使った詳細解析では代表長さとして半厚さ・半径をそのまま使うことが多いため、使用する解析手法に応じた定義の確認が不可欠です。
境界条件とビオ数の関係
続いては、境界条件とビオ数の関係を確認していきます。
ビオ数は境界条件の設定とも密接に関連しており、熱伝導方程式の解析において重要な役割を果たします。
第3種境界条件としてのビオ数
固体と流体の界面における境界条件を第3種境界条件(Robin境界条件)と呼びます。
これは固体表面での熱流束が対流熱伝達によって与えられる条件であり、次のように表されます。
第3種境界条件:−λ × (dT/dx)|_surface = h × (T_surface − T∞)
この境界条件を無次元化すると、ビオ数が自然に現れます。
−(dθ/dξ)|_ξ=1 = Bi × θ|_ξ=1
ここで θ = (T − T∞) / (Ti − T∞):無次元温度、ξ = x / Lc:無次元座標
この無次元化によって、ビオ数が境界での熱移動の強さを支配するパラメータであることが明確になります。
Bi → 0 のとき境界での勾配がゼロ(断熱に近い)に、Bi → ∞ のとき境界温度が流体温度に等しい(温度一定境界)に漸近します。
ビオ数と第1・第2種境界条件の比較
伝熱解析の境界条件は、大きく3種類に分類されます。
第1種(ディリクレ条件)は表面温度一定(Bi → ∞ の極限に対応)、第2種(ノイマン条件)は表面熱流束一定(Bi → 0 の断熱は特殊ケース)、第3種(Robin条件)は対流境界(一般的なビオ数)です。
実際の工学問題ではほとんどの場合が第3種境界条件に相当しており、ビオ数がゼロや無限大に近い極限でのみ第1種・第2種境界条件で近似できます。
この理解は、市販の熱解析ソフトウェアで境界条件を設定する際にも直接役立ちます。
複合境界(輻射+対流)でのビオ数の取り扱い
実際の加熱・冷却プロセスでは、対流だけでなく輻射(放射)も表面熱移動に寄与することがあります。
輻射を含む場合の有効熱伝達率(h_eff)は、対流熱伝達率と輻射等価熱伝達率の和として表せます。
輻射を含む有効熱伝達率
h_eff = h_conv + h_rad
h_rad = ε × σ × (T_s² + T∞²) × (T_s + T∞)
ここで ε:放射率、σ:ステファン・ボルツマン定数(5.67 × 10⁻⁸ W/m²・K⁴)
この h_eff をビオ数の計算に使用することで、輻射を含む実際の条件に近い評価が可能です。
高温プロセス(溶融金属・燃焼炉など)では輻射の寄与が大きくなるため、有効熱伝達率を用いたビオ数の評価が重要です。
集中定数系の適用判定と計算手順
続いては、集中定数系の適用判定と実際の計算手順を確認していきます。
ビオ数計算の重要な応用の一つが、集中定数系として扱えるかどうかの判定です。
集中定数系の適用判定フロー
集中定数法の適用可否を判定するフローは次のとおりです。
集中定数系の判定手順
Step1:固体の体積 V と表面積 As を計算する
Step2:代表長さ Lc = V / As を求める
Step3:対流熱伝達率 h と固体の熱伝導率 λ を確認する
Step4:Bi = h × Lc / λ を計算する
Step5:Bi < 0.1 → 集中定数法を適用可、Bi ≥ 0.1 → 詳細解析が必要
判定がボーダーライン(Bi ≈ 0.1)の場合は、安全側として詳細解析を選択することが推奨されます。
集中定数法による温度変化の計算
Bi < 0.1 が確認されたら、集中定数法で固体の温度変化を計算します。
集中定数法による計算例
条件:アルミ球(直径 20 mm、λ = 200 W/m・K、ρ = 2700 kg/m³、cp = 900 J/kg・K)
空気強制対流冷却(h = 50 W/m²・K)、初期温度 Ti = 200℃、空気温度 T∞ = 20℃
代表長さ:Lc = r/3 = 0.01/3 = 3.33 × 10⁻³ m
ビオ数:Bi = 50 × 3.33 × 10⁻³ / 200 = 8.33 × 10⁻⁴ ≪ 0.1 → 集中定数法適用可
時定数:τ = ρ × Lc × cp / h = 2700 × 3.33 × 10⁻³ × 900 / 50 = 162 s
100秒後の温度:T(100) = 20 + (200−20) × exp(−100/162) = 20 + 180 × 0.538 = 117℃
時定数 τ は固体が流体温度に近づく速さの目安であり、約 3τ 経過で初期温度差の約95%が解消されます。
Bi ≥ 0.1 の場合の解析手法
ビオ数が0.1以上の場合は、固体内の温度分布を考慮した詳細解析が必要です。
代表的な手法として、ヒーズラー図(Heisler chart)を用いた解析があります。
ヒーズラー図は平板・円柱・球の非定常温度分布を Bi と Fo の関数として図示したもので、簡便な概算に有効です。
より高精度な解析が必要な場合は、有限要素法(FEM)や有限差分法(FDM)による数値解析が用いられます。
現代の設計現場では、ANSYS・COMSOL・ABAQUS などの商用 FEM ソフトウェアを使った熱解析が一般的になっています。
まとめ
本記事では、ビオ数の計算方法と公式について、基本式・各パラメータの求め方・形状別の代表長さ・境界条件との関係・集中定数系の適用判定と計算手順まで詳しく解説しました。
Bi = h × Lc / λという公式を正確に理解し、対流熱伝達率・熱伝導率・代表長さを適切に取得・設定することがビオ数計算の基本です。
Bi < 0.1 の条件を確認したうえで集中定数法を適用し、それ以外の場合はヒーズラー図や数値解析を選択することが正確な非定常伝熱解析の第一歩です。
境界条件との関係や輻射を含む実際の条件への対応も含めて、ビオ数の理解を実践的に深めていただければ幸いです。