自動車のタイヤから医療用手袋・工業用パッキンまで、私たちの生活のあらゆる場面でゴム製品は活躍しています。
そのゴム製品の原料として重要なのが合成ゴムであり、現代のゴム工業においては天然ゴムをはるかに上回る量が使用されています。
しかし、合成ゴムとはどのような素材なのか、天然ゴムとどう違うのか、どのような種類があってそれぞれどんな特性・用途を持つのかを体系的に理解している方は多くないかもしれません。
本記事では、合成ゴムとは何かという基本から、天然ゴムとの化学的な違い・代表的な合成ゴムの種類と特性・ゴム工業における役割・加工方法まで、わかりやすく解説していきます。
ゴム材料について学びたい方・材料選定に役立てたい方・化学・高分子科学を学んでいる方にとって、きっと役立つ内容となっているでしょう。
目次
合成ゴムとは?天然ゴムとの本質的な違い
それではまず、合成ゴムの定義と天然ゴムとの本質的な違いについて解説していきます。
合成ゴムとは、石油などを原料として化学合成されたゴム状弾性を持つ高分子材料(エラストマー)のことです。
エラストマーとは、「エラスティック(弾性的な)ポリマー」を意味し、大きく変形しても元の形に戻る弾性回復性を持つ高分子材料の総称です。
天然ゴムはゴムの木(Hevea brasiliensis)の樹液(ラテックス)から採取されるポリイソプレン(天然型はシス-1,4-ポリイソプレン)を主成分とする天然のポリマーです。
これに対して合成ゴムは、天然ゴムと同等または異なる化学構造を人工的に合成したものであり、設計の自由度・性能の均一性・供給安定性の面で天然ゴムよりも優れた特性を持っています。
天然ゴムと合成ゴムの基本比較
天然ゴム:ゴムの木由来・シス-1,4-ポリイソプレン・高い引張強度・優れた弾性・低温特性に優れる。気候・産地に依存し供給が不安定。
合成ゴム:石油由来・多種多様な化学構造・耐熱性・耐油性・耐候性など特定性能を強化できる。工業的大量生産が可能で品質が均一。
合成ゴムの歴史と開発背景
合成ゴムの歴史は、第一次世界大戦・第二次世界大戦という二つの世界大戦と深く関わっています。
天然ゴムはもともと熱帯地域(主に東南アジア・南米)で生産されており、戦時中に天然ゴムの供給が途絶えるリスクが各国にとって深刻な問題でした。
ドイツは第一次世界大戦中にジメチルブタジエンの重合体(メチルゴム)を世界初の合成ゴムとして実用化し、天然ゴムの代替材料として使用しました。
第二次世界大戦中には米国が大規模な合成ゴム製造プログラムを立ち上げ、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)の大量生産技術を確立しました。
戦後も合成ゴムの技術革新は続き、現在では世界のゴム消費量の約60〜65%を合成ゴムが占めるほどに成長しています。
合成ゴムの化学的基礎
合成ゴムを化学的に理解するためには、ジエン系モノマーの重合という概念が重要です。
天然ゴムの主成分であるポリイソプレンと同様に、多くの合成ゴムは二重結合を2つ持つジエン系モノマー(ブタジエン・イソプレン・クロロプレンなど)を重合して製造されます。
重合の際の二重結合の配置(シス・トランス)によってポリマーの物性が大きく変わり、ゴム状弾性を示すためにはシス構造の割合が高いことが重要です。
また、2種類以上のモノマーを共重合することで、単独重合体とは異なる物性バランスを持たせることができるのも合成ゴムの大きな特徴です。
SBR(スチレン-ブタジエンゴム)はスチレンとブタジエンの共重合体であり、天然ゴムよりも耐摩耗性・耐老化性に優れています。
加硫(架橋)とゴムの弾性
ゴム材料が実用的な弾性体として機能するためには、加硫(架橋処理)というプロセスが欠かせません。
未加硫のゴムは粘性が高く、変形後に完全には元の形に戻りません。
加硫は硫黄・有機過酸化物などの架橋剤を使ってポリマー鎖同士を化学的に結合させることで、三次元的な網目構造を形成するプロセスです。
架橋密度が適切に設定されることで、大きな変形に対して元の形状に戻る優れた弾性回復性が発現します。
架橋密度が低すぎると柔らかく変形しやすくなり、高すぎると硬くて脆い材料になるため、用途に応じた最適な加硫条件の設定が重要です。
代表的な合成ゴムの種類と特性
続いては、代表的な合成ゴムの種類とそれぞれの特性・用途を確認していきます。
合成ゴムには非常に多くの種類があり、それぞれの特性を理解することで適切な材料選定が可能になります。
汎用合成ゴム(SBR・BR・IR)
最も生産量が多い合成ゴムがスチレン-ブタジエンゴム(SBR)です。
SBRは天然ゴムと並んでタイヤの主要原料として使われており、耐摩耗性・耐老化性・コストパフォーマンスに優れています。
| 種類 | 略称 | 主な特性 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| スチレン-ブタジエンゴム | SBR | 耐摩耗性・耐老化性・加工性良好 | タイヤ・ベルト・ホース・靴底 |
| ポリブタジエンゴム | BR | 反発弾性高い・耐摩耗性・低温特性良好 | タイヤサイドウォール・ゴルフボール・バンパー |
| ポリイソプレンゴム | IR | 天然ゴムに近い物性・高純度 | 医療用手袋・コンドーム・精密成形品 |
| ブチルゴム | IIR | ガス透過性極低・耐老化性・電気絶縁性 | チューブ・防振材・電線被覆 |
| クロロプレンゴム | CR | 耐候性・耐油性・難燃性 | ウェットスーツ・防水材・ベルト |
ブタジエンゴム(BR)は反発弾性が非常に高く耐摩耗性にも優れているため、SBRとブレンドしてタイヤトレッドに使われることが多く、ゴルフボールのコア材料としても重要な素材です。
特殊合成ゴム(NBR・EPDM・シリコーンゴム)
特定の環境・用途向けに開発された特殊合成ゴムも産業上非常に重要な材料群です。
ニトリルゴム(NBR)はアクリロニトリルとブタジエンの共重合体で、優れた耐油性・耐燃料性を持つことから、自動車のホース・ガスケット・オイルシールなど油に触れる部品に多用されます。
エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)は耐候性・耐オゾン性・耐熱性に優れており、自動車のウェザーストリップ・屋根用防水シート・電線被覆などに使われています。
シリコーンゴムはケイ素-酸素結合(シロキサン結合)を主鎖に持つ特殊なエラストマーであり、使用温度範囲が−60℃〜+200℃以上と非常に広く、医療用チューブ・食品接触材料・電子部品のシール材として活躍しています。
フッ素ゴム(FKM)は耐熱性・耐薬品性・耐油性が最高レベルの特殊合成ゴムで、航空宇宙・化学プラント・自動車エンジン周辺など過酷な環境でのシール材として使われます。
熱可塑性エラストマー(TPE)と合成ゴム
近年、合成ゴムに関連した重要な材料として熱可塑性エラストマー(TPE:Thermoplastic Elastomer)が注目されています。
従来の合成ゴムは架橋処理(加硫)が必要であり、一度成形すると再溶融・リサイクルができないという課題がありました。
TPEは加硫を必要とせず、熱可塑性樹脂のように加熱成形・リサイクルが可能でありながら、常温ではゴム状の弾性を示す材料です。
スチレン系TPE(SBS・SEBS)・オレフィン系TPE(TPO)・ウレタン系TPE(TPU)・ポリエステル系TPE(TPEE)などが代表的な種類です。
TPEは射出成形・押出成形など熱可塑性樹脂と同じ成形機で加工できるため、成形サイクルの短縮・材料リサイクルの容易さから採用が急増しており、自動車・電子機器・日用品・医療機器など幅広い分野で使われています。
合成ゴムの加工と製品化
続いては、合成ゴムが製品として加工・成形されるプロセスを確認していきます。
ゴム製品の品質は原料ゴムの種類だけでなく、配合設計・混練・成形・加硫の各工程の管理が大きく影響します。
配合設計と混練プロセス
ゴム製品の製造においては、原料ゴムに各種配合剤を加える配合設計が品質を決定する重要な工程です。
ゴム配合剤には、架橋剤(硫黄・有機過酸化物)・加硫促進剤・老化防止剤・補強剤(カーボンブラック・シリカ)・可塑剤・充填剤などが含まれます。
カーボンブラックはゴムの最も重要な補強剤であり、添加することで引張強度・耐摩耗性が大幅に向上します。
タイヤゴムにカーボンブラックを配合することで、未配合のゴムと比較して引張強度は数倍に向上し、タイヤの耐久性が大きく改善されます。
これらの配合剤をゴムと均一に混合するために、バンバリーミキサーやオープンロールミルなどの混練機を使用して高温・高圧下での混合が行われます。
成形・加硫プロセス
混練されたゴムコンパウンドは、圧縮成形・押出成形・射出成形・トランスファー成形など様々な方法で成形されます。
成形後または成形と同時に、加熱によって架橋反応(加硫)を進行させることで最終製品が完成します。
加硫温度は使用する架橋システムによって異なりますが、一般的には150〜200℃程度の温度で数分〜数十分の加熱処理が行われます。
加硫の均一性を確保するために、加硫時間・温度・圧力の精密な管理が必要であり、加硫曲線(レオメーター試験)によって最適な加硫条件が設定されます。
近年は射出成形技術の発展により、ゴムの射出成形(RIM:ゴム射出成形)でも複雑形状の高精度成形が可能になっており、生産性向上・廃材削減に貢献しています。
ゴム工業における品質管理と試験方法
ゴム製品の品質確保には、JIS(日本産業規格)・ISO・ASTM等の規格に基づく各種試験が実施されます。
主要な試験項目として、引張試験(引張強さ・破断伸び・モジュラス)・硬さ試験(デュロメータ硬度)・圧縮永久ひずみ試験・耐老化試験(熱老化・オゾン老化)・耐液体試験(耐油・耐溶剤)などがあります。
圧縮永久ひずみはゴムシール材にとって特に重要な特性であり、一定変形下での長時間保持後の回復率を評価します。
この値が大きいほどシール性能が低下しやすく、特にエンジンシールやOリングなど長期信頼性が求められる用途では厳しい管理が必要です。
品質管理に加えて、ゴム材料のトレーサビリティ確保・環境規制物質(REACH規制・RoHS指令など)への対応も現代のゴム工業における重要な課題となっています。
合成ゴムの環境問題と将来展望
続いては、合成ゴムをとりまく環境問題と将来的な技術動向を確認していきます。
合成ゴムは石油を主な原料とするため、その製造・使用・廃棄における環境負荷の低減が産業全体の課題となっています。
タイヤのマイクロプラスチック問題
合成ゴムの最大用途であるタイヤに関して、近年深刻な環境問題として注目されているのがタイヤのゴム粒子によるマイクロプラスチック汚染です。
走行中に道路との摩擦によってタイヤから微粒子(タイヤウェアパーティクル:TWP)が発生し、雨水とともに河川・海洋に流出することが確認されています。
TWPはマイクロプラスチックの主要な発生源の一つとして位置づけられており、その環境影響・生態影響の評価と発生量低減に向けた研究が世界的に進められています。
タイヤの耐摩耗性向上・代替材料の開発・路面排水管理など多角的なアプローチが検討されています。
バイオベースゴムと持続可能な材料
石油依存度の低減とカーボンニュートラル実現に向けて、バイオベースの合成ゴムの開発が進んでいます。
バイオエタノールやバイオマスから得られるブタジエン・イソプレンを原料として合成ゴムを製造する技術が研究されており、一部は商業化段階に入っています。
住友化学・ランクセスなどの大手ゴム・化学メーカーが植物由来原料を使ったSBR・BRの開発を進めており、タイヤメーカーとの共同実証試験も行われています。
また、タンポポ(ロシアンタンポポ:Taraxacum kok-saghyz)やグアユール(Parthenium argentatum)などから天然ゴムを採取する研究も進んでおり、熱帯地域以外での天然ゴム生産の可能性が探られています。
合成ゴムのリサイクルと廃棄問題
加硫された合成ゴムは三次元架橋構造を持つため、熱可塑性材料のような溶融リサイクルが困難であるという課題があります。
廃タイヤのリサイクル技術としては、粉砕して得られるゴム粉末(再生ゴム)を道路舗装材・人工芝充填材・スポーツ床材などに利用するマテリアルリサイクルが主流です。
熱分解(パイロリシス)によって廃ゴムからカーボンブラック・熱分解油・スチールを回収するケミカルリサイクルも実用化が進んでいますが、再生カーボンブラックの品質向上が課題となっています。
近年は脱架橋(devulcanization)技術の研究も進んでおり、加硫ゴムの架橋結合を選択的に切断して再利用可能なゴム材料として再生する技術の実用化に向けた取り組みが続いています。
まとめ
本記事では、合成ゴムとは何か、天然ゴムとの違い・代表的な種類と特性・加工プロセス・環境問題・将来展望まで幅広く解説してきました。
合成ゴムは化学合成されたエラストマーであり、SBR・BR・NBR・EPDM・シリコーンゴムなど多種多様な種類が存在し、それぞれが異なる特性と用途を持っています。
天然ゴムと比較して設計自由度・供給安定性・品質均一性に優れており、タイヤ・ホース・ガスケット・シール材・防振材など産業のあらゆる場面で活躍しています。
一方で、石油由来材料としての環境負荷・タイヤ摩耗粒子によるマイクロプラスチック問題・廃棄物のリサイクル困難性など、解決すべき課題も多く残っています。
バイオベースゴム・熱可塑性エラストマー・脱架橋技術など次世代技術の発展により、持続可能なゴム工業の実現に向けた取り組みが今後も加速していくでしょう。