機械設計や製造現場で部品同士を固定する際、必ずといっていいほど登場するのがねじの引張強度です。
ねじは単に締め付けるだけの部品ではありません。
締結後にどれだけの荷重に耐えられるかは、強度区分や規格、そしてサイズによって大きく変わってきます。
とはいえ、カタログや規格表を見ても数値が羅列されているだけで、実際の現場でどう活かせばいいのか分かりにくいと感じる方も多いのではないでしょうか。
本記事では、ねじの引張強度は?規格やサイズ別の目安も!(強度区分・破断・締結など)というテーマに沿って、基礎知識から実務で使える目安、破断のメカニズム、締結時の注意点まで幅広く解説していきます。
これからねじ選定に携わる方も、すでに設計業務に携わっている方も、ぜひ最後まで読んでみてください。
目次
ねじの引張強度は強度区分と呼び径で決まる
それではまずねじの引張強度は?規格やサイズ別の目安も!という疑問に対する結論から解説していきます。
結論からお伝えすると、ねじの引張強度は主に強度区分と呼び径の組み合わせによって決まります。
強度区分とは、ねじの材質や熱処理によって規定される強度のランクのことです。
数字とドットで表記され、例えば4.8や8.8、10.9といった形式で表されます。
この数字が大きいほど、引張強度も高くなる傾向にあります。
引張強度とは何か
引張強度とは、ねじを軸方向に引っ張ったときに破断せずに耐えられる最大の応力を指します。
単位はN毎平方ミリメートルやMPaで表されることが一般的です。
似た言葉に降伏強度がありますが、こちらは変形が始まる境目の強さであり、引張強度とは意味が異なります。
ねじの設計では、この二つの数値をどちらも理解しておく必要があるでしょう。
引張強度の目安式
破断荷重(N)=引張強さ(MPa)×有効断面積(mm2)
例えばM10の強度区分8.8であれば、引張強さは約800MPa前後、有効断面積は約58mm2となります。
この場合の破断荷重はおよそ46400N程度と計算できます。
強度区分ごとの目安一覧表
続いて、代表的な強度区分ごとの引張強さと降伏点の目安を一覧表にまとめます。
| 強度区分 | 引張強さの目安(MPa) | 降伏点の目安(MPa) | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| 4.6 | 400 | 240 | 一般的な軽負荷部品 |
| 4.8 | 420 | 340 | 家具や軽量機器 |
| 5.6 | 500 | 300 | 一般機械部品 |
| 5.8 | 520 | 420 | 汎用ボルト |
| 6.8 | 600 | 480 | 自動車部品の一部 |
| 8.8 | 800 | 640 | 構造用ボルト全般 |
| 9.8 | 900 | 720 | 高強度構造部品 |
| 10.9 | 1040 | 940 | 自動車や建築の重要部位 |
| 12.9 | 1220 | 1100 | 航空機や高負荷用途 |
このように、強度区分が上がるほど引張強さと降伏点は右肩上がりに増加していきます。
ただし強度が高いほど良いというわけではなく、脆さが増すケースもあるため注意が必要でしょう。
サイズ呼び径による強度の違い
強度区分が同じでも、サイズが異なれば当然ながら破断荷重も変わってきます。
これはねじの有効断面積が呼び径によって決まるためです。
呼び径が大きくなるほど断面積が増え、同じ引張強さでもより大きな荷重に耐えられるようになります。
次の章では、この規格と表示方法についてさらに詳しく見ていきましょう。
ねじの規格にはJISとISOがあり表示方法も異なる
続いてはねじの規格について確認していきます。
ねじの強度に関する規格は、国内ではJIS規格、国際的にはISO規格が広く使われています。
両者は多くの部分で共通していますが、試験方法や一部の数値基準に細かな違いがある点は覚えておきたいところです。
JIS規格における引張強さ
JIS規格では、JIS B 1051という規格の中で強度区分ごとの機械的性質が細かく定められています。
この規格には引張強さのほかに、硬さの範囲や伸びの規定も含まれています。
国内で流通するボルトやナットの多くは、このJIS規格に準拠して製造されているのが実情です。
設計図面にJISマークや強度区分の記載がある場合、この規格を根拠にしていると考えて差し支えないでしょう。
ISO規格との違い
ISO規格ではISO898-1という規格が該当し、JISとほぼ同様の考え方で強度区分を分類しています。
海外製の部品や輸入機械を扱う場合には、こちらの規格表記に出会うことも多いはずです。
数値そのものはJISと共通する部分が多いものの、試験温度の条件などに細かな差異があります。
グローバルに部品を調達する企業では、両規格の対応表を用意しているケースも珍しくありません。
強度区分の表示方法とねじ頭の刻印
強度区分は、多くの場合ねじの頭部に刻印されています。
例えば頭に8.8と刻まれていれば、引張強さがおよそ800MPa、降伏点比率が0.8であることを意味します。
小さなボルトでは刻印が省略されることもあるため、その場合は納品書や検査証明書で確認する必要があるでしょう。
強度区分の見た目だけで判断せず、必ず証明書や規格書で数値を確認することが安全な設計の第一歩です。
次は、実際にねじが破断してしまう仕組みについて見ていきます。
ねじの破断は引張荷重が限界を超えたときに発生する
続いてはねじの破断について確認していきます。
ねじの破断とは、引張荷重や繰り返し荷重が材料の限界を超えたときに起こる現象です。
一度破断してしまうと締結部全体の機能が失われるため、設計段階での余裕を持った選定が欠かせません。
破断が起こるメカニズム
破断のメカニズムは大きく分けて二種類あります。
一つは静的な引張荷重が引張強さを超えることで一気に破壊される延性破壊です。
もう一つは、繰り返し荷重によって微小な亀裂が徐々に成長し、最終的に破断へ至る疲労破壊でしょう。
特に振動が多い環境では、静的な計算値だけでは不十分なケースがあります。
疲労を考慮した設計が求められる場面も少なくありません。
引張荷重と破断荷重の計算方法
実務では、想定される荷重に対して十分な安全率を確保することが基本です。
安全率の考え方
安全率=破断荷重÷使用荷重
一般的な機械部品では安全率3から5程度を確保することが多いです。
人命に関わる用途ではさらに高い安全率が求められることもあります。
この計算を怠ると、想定外の負荷がかかった際に破断リスクが高まってしまいます。
破断を防ぐための注意点
破断を防ぐためには、適切な強度区分の選定に加えて、腐食や水素脆性への対策も欠かせません。
特に高強度区分のボルトほど水素脆性による遅れ破壊のリスクが高まる傾向にあります。
めっき処理や使用環境によっては、想定より早く破断してしまうこともあるでしょう。
定期的な点検や増し締めの確認も、破断予防には有効な手段です。
それでは次に、締結という観点からねじの強度を掘り下げていきます。
締結の信頼性は軸力と引張強度のバランスで決まる
続いては締結について確認していきます。
ねじの締結とは、単に部品を固定するだけでなく、適切な軸力を発生させて部材同士を密着させる行為を指します。
軸力が不足すればゆるみの原因になりますし、過剰であればねじ自体の破断につながるおそれもあります。
締結における軸力と引張強度の関係
軸力は締結の要となる要素であり、引張強度に対してどの程度の余裕を持たせるかが重要になります。
一般的には、引張強さに対して軸力を70パーセントから80パーセント程度に収めることが推奨されています。
これを超えて締め付けてしまうと、塑性変形が進み再利用が難しくなるケースもあるでしょう。
締付けトルクとの関係
現場では軸力を直接測定することが難しいため、代わりに締付けトルクで管理するのが一般的です。
締付けトルクの簡易計算式
トルク(N・m)=トルク係数×呼び径(m)×軸力(N)
トルク係数は摩擦条件によって変動するため、実測値を用いるのが望ましいです。
同じねじでも潤滑状態やめっきの種類によってトルク係数は変化します。
そのため、同一図面であっても現場条件に合わせた調整が必要になる場合があるのです。
適切な締結のためのポイント
適切な締結を行うためには、トルクレンチなど管理された工具の使用が欠かせません。
また、締め付け順序や複数回に分けて締める手順を守ることで、軸力のばらつきを抑えられます。
ゆるみ止め剤やばね座金の併用も、締結の信頼性を高める手段としてよく採用されています。
次の章では、実際のサイズ別に引張強度の目安を確認していきましょう。
ねじのサイズ別に見る引張強度の目安
続いてはサイズ別の引張強度の目安について確認していきます。
同じ強度区分であっても、サイズが違えば実際に耐えられる荷重は大きく異なります。
ここでは代表的な呼び径ごとの目安を一覧にまとめます。
| 呼び径 | 有効断面積(mm2) | 強度区分8.8の破断荷重目安(N) | 強度区分10.9の破断荷重目安(N) |
|---|---|---|---|
| M3 | 5.03 | 4024 | 5231 |
| M4 | 8.78 | 7024 | 9131 |
| M5 | 14.2 | 11360 | 14768 |
| M6 | 20.1 | 16080 | 20904 |
| M8 | 36.6 | 29280 | 38064 |
| M10 | 58.0 | 46400 | 60320 |
| M12 | 84.3 | 67440 | 87672 |
| M16 | 157 | 125600 | 163280 |
この表からも分かるように、サイズが一段階上がるだけで破断荷重は大きく跳ね上がります。
M3からM6の小径ねじの目安
M3からM6程度の小径ねじは、電子機器や精密機械の筐体固定などに多く使われています。
断面積が小さいため、強度区分を上げても破断荷重の絶対値はさほど大きくありません。
むしろ、締め付けすぎによるねじ山のつぶれや破断に注意すべきサイズ帯といえるでしょう。
M8からM12の中径ねじの目安
M8からM12は、一般産業機械や自動車部品で最も多用されるサイズ帯です。
強度区分8.8や10.9を選定することで、幅広い荷重条件に対応できます。
コストと強度のバランスが取りやすいため、迷ったときの標準的な選択肢になりやすいサイズといえます。
M14以上の大径ねじの目安
M14以上の大径ねじは、建築構造物や重機、プラント設備など大きな荷重がかかる箇所に使用されます。
この領域になると、強度区分だけでなく座面の面圧やナット側の強度も同時に検討する必要があります。
大径になるほど破断荷重は大きくなりますが、締結全体としての設計思想がより重要になってくるでしょう。
ここまでで、規格やサイズごとの目安について一通り確認できたのではないでしょうか。
まとめ
今回は、ねじの引張強度は?規格やサイズ別の目安も!(強度区分・破断・締結など)というテーマで解説してきました。
ねじの引張強度は、強度区分と呼び径という二つの要素によって決まります。
強度区分はJISやISOといった規格に基づいて定められており、頭部の刻印などから確認することが可能です。
破断は静的な過負荷だけでなく、疲労や水素脆性によっても引き起こされるため、安全率を考慮した選定が欠かせません。
また締結においては、引張強度そのものだけでなく軸力や締付けトルクとのバランスも重要な判断材料になります。
サイズ別の目安を把握しておけば、設計や現場作業における部品選定もよりスムーズになるはずです。
ぜひ今回の内容を参考に、用途に合った強度区分とサイズのねじを選定してみてください。