気象学・空調工学・化学実験・食品科学など、幅広い分野で「飽和水蒸気圧表」が参照されます。
「表の数値の意味がわからない」「表にない温度の値はどうやって求めるの?」「補間計算ってどうするの?」という疑問を持つ方は多いのではないでしょうか。
本記事では、飽和水蒸気圧表の見方・読み方・表にない温度での値の計算方法(補間計算)・物性値の活用方法について、温度別数値と実験データの観点からわかりやすく丁寧に解説いたします。
目次
飽和水蒸気圧表とは「温度ごとの水の飽和蒸気圧をまとめた数値表」であり、気液平衡の基本データ源である
それではまず、飽和水蒸気圧表の基本的な意味と構成について解説していきます。
飽和水蒸気圧表(saturation vapor pressure table)とは、水(液体または氷)とその蒸気が気液平衡(または気固平衡)にある状態において、蒸気が示す圧力(飽和蒸気圧)を温度ごとにまとめた数値表です。
飽和水蒸気圧は温度のみによって決まる物理定数であり、非常に精密に測定・整理されたデータが各種データベース・教科書・ハンドブックに収録されています。
飽和水蒸気圧表の基本的な見方:横軸(または縦軸)に温度(℃またはK)、対応する値として飽和水蒸気圧(Pa・kPa・hPa・mmHgなど)が記載されています。温度が高いほど飽和蒸気圧は大きくなり、100℃で約101.3kPa(1atm)に達します。
飽和水蒸気圧表の代表的な値
| 温度(℃) | 飽和水蒸気圧(kPa) | 飽和水蒸気圧(mmHg) | 飽和水蒸気圧(hPa) |
|---|---|---|---|
| 0 | 0.6113 | 4.58 | 6.113 |
| 5 | 0.8726 | 6.54 | 8.726 |
| 10 | 1.228 | 9.21 | 12.28 |
| 15 | 1.706 | 12.79 | 17.06 |
| 20 | 2.338 | 17.53 | 23.38 |
| 25 | 3.169 | 23.76 | 31.69 |
| 30 | 4.246 | 31.82 | 42.46 |
| 40 | 7.384 | 55.32 | 73.84 |
| 60 | 19.94 | 149.4 | 199.4 |
| 80 | 47.39 | 355.1 | 473.9 |
| 100 | 101.3 | 760.0 | 1013 |
この表から、温度が上昇するにつれて飽和水蒸気圧が指数関数的に増大していることが視覚的に確認できます。
20℃から40℃の20℃の上昇で蒸気圧は約3.2倍になり、40℃から60℃では約2.7倍になるなど、温度変化に対して非常に敏感に変化する性質が読み取れます。
氷(固体)の飽和蒸気圧表
0℃以下では水が液体ではなく固体(氷)として存在するため、氷の飽和蒸気圧表が別途存在します。
氷の飽和蒸気圧は同じ温度の液体水より低く、0℃における氷の飽和蒸気圧は水とほぼ同値の0.6113kPaですが、温度が下がるほど差が顕著になります。
凍結乾燥(フリーズドライ)技術では、氷の飽和蒸気圧表を参照して昇華が起こる温度・圧力条件を設計します。
飽和水蒸気圧表の読み方|各数値の意味と活用法
続いては、飽和水蒸気圧表の各数値が持つ意味と、実際の計算・判断にどう活用するかを確認していきます。
相対湿度の計算への活用
飽和水蒸気圧表の最も身近な活用例のひとつが、相対湿度の計算です。
相対湿度(RH)は以下の式で定義されます。
相対湿度(%)= 実際の水蒸気分圧 ÷ その温度の飽和水蒸気圧 × 100
例:25℃の部屋で実際の水蒸気分圧が1.90kPaのとき
RH = 1.90 ÷ 3.169 × 100 ≒ 60%
この計算から、飽和水蒸気圧表の25℃の値(3.169kPa)を参照することで相対湿度が求まります。
気温が上昇すると飽和水蒸気圧が増大するため、水蒸気量が変わらなくても相対湿度は低下します。
夏に部屋のエアコンで気温を下げると相対湿度が上昇するのは、飽和水蒸気圧が低下することで同じ水蒸気量でも飽和に近づくためです。
露点温度の読み取り
露点(dew point)とは、空気中の水蒸気が飽和に達して凝縮(結露)が始まる温度のことです。
現在の水蒸気分圧がわかれば、飽和水蒸気圧表でその値に対応する温度を逆引きすることで露点が求まります。
例:現在の水蒸気分圧が1.228kPaのとき
表を参照すると、10℃における飽和水蒸気圧が1.228kPaであることがわかります。
したがって露点は10℃ → 気温が10℃以下になると結露が起きる
この逆引きの作業が、飽和水蒸気圧表の重要な実用的活用法のひとつです。
沸点の確認と変化の計算
飽和水蒸気圧表において「飽和蒸気圧が外部圧力(大気圧)と等しくなる温度が沸点」です。
標準大気圧101.3kPaに対応する温度が100℃であることは表から直接確認できます。
山頂などで大気圧が低い場合は、大気圧に対応する温度(沸点)を表から求めることができます。
補間計算の方法|表にない温度での飽和蒸気圧の求め方
続いては、飽和水蒸気圧表に記載されていない温度の値を計算で求める「補間(interpolation)」の方法を確認していきます。
補間計算は実験データの活用において基本的かつ重要なスキルです。
線形補間(一次補間)の方法
最も簡便な補間法が線形補間(linear interpolation)です。
2つの既知点(T₁, P₁)と(T₂, P₂)の間の任意の温度Tにおける蒸気圧Pを直線的に補間します。
線形補間の式:
P = P₁ + (T − T₁)÷(T₂ − T₁)× (P₂ − P₁)
例:22℃の飽和水蒸気圧を求める(20℃:2.338kPa、25℃:3.169kPa)
P = 2.338 +(22−20)÷(25−20)×(3.169−2.338)
= 2.338 + 0.4 × 0.831
= 2.338 + 0.332 = 2.670kPa
(実測値は約2.645kPaであり、線形補間の誤差は約1%程度)
線形補間は計算が簡単ですが、蒸気圧の温度依存性が非線形(指数関数的)であるため、温度間隔が広いほど誤差が大きくなります。
対数補間による精度向上
蒸気圧の温度依存性が指数関数的(ln P と 1/T が線形関係)であることを利用して、対数補間を行うとより高精度な値が得られます。
対数補間の式:
ln P = ln P₁ +(T − T₁)÷(T₂ − T₁)×(ln P₂ − ln P₁)
P = exp(ln P)
例:22℃の補間(ln 2.338=0.8493、ln 3.169=1.1530)
ln P = 0.8493 + 0.4 ×(1.1530−0.8493)
= 0.8493 + 0.1215 = 0.9708
P = e^0.9708 ≒ 2.640kPa
(実測値2.645kPaに非常に近い値が得られます)
対数補間は線形補間より計算が複雑ですが、蒸気圧の物理的な特性に合った補間法であり、特に温度間隔が広い場合に精度が向上します。
アントワン式による計算との比較
高精度が求められる場合は補間計算よりもアントワン式を使うことが推奨されます。
アントワン式は経験的パラメータA・B・Cを用いた対数形の計算式であり、適用温度範囲内では実測値との誤差が非常に小さくなります。
補間計算は表にある限られた点の間を埋めるものであり、アントワン式は連続した温度範囲で精度よく蒸気圧を計算できる点で優れています。
実務・研究の場では、精度が求められる場合はアントワン式、簡易計算や素早い確認には線形補間・対数補間という使い分けが合理的でしょう。
飽和水蒸気圧表の出所と信頼性の確認方法
続いては、飽和水蒸気圧表のデータをどこから入手し、その信頼性をどう評価するかを確認していきます。
信頼性の高いデータソース
飽和水蒸気圧のデータを参照する際には、出所の信頼性を確認することが重要です。
NIST(米国国立標準技術研究所)のWebBook(webbook.nist.gov)は、水を含む多くの物質の物性値を無料で提供しており、最も信頼性が高い参照先のひとつです。
WMO(世界気象機関)・JMA(気象庁)が採用する気象学的な飽和水蒸気圧データも、国際的に検証された高精度なデータです。
Tetens式・Buck式・Huang式など複数の実験式が存在しており、目的の温度範囲と要求精度に応じて最適な式・表を選択することが重要です。
温度範囲と精度の確認
飽和水蒸気圧表を使う際は、参照している表の適用温度範囲を必ず確認しましょう。
多くの表は液体水(0〜100℃)を対象としていますが、0℃以下では氷の飽和蒸気圧表を参照する必要があります。
また100℃以上の高温域では、圧力鍋・蒸気タービン・高温プロセス用の高温飽和蒸気圧データ(IAPWS-IF97などの国際基準)を使うことが推奨されます。
まとめ
本記事では、飽和水蒸気圧表の見方・読み方・補間計算の方法・物性値の信頼性の確認方法について詳しく解説してきました。
飽和水蒸気圧表は温度ごとの水(または氷)の飽和蒸気圧をまとめた数値表であり、相対湿度計算・露点の読み取り・沸点確認・蒸留設計など幅広い場面で活用されます。
表にない温度の値は線形補間または対数補間で計算でき、対数補間の方が指数関数的な蒸気圧の特性に合っており精度が高くなります。
高精度が必要な場合はアントワン式などの経験式を使い、データはNISTなどの信頼性の高い出所から入手することが重要です。
飽和水蒸気圧表を正しく読み取り活用する力が、気象・工学・化学・食品科学など多岐にわたる場面での正確な計算と判断の基盤となるでしょう。