マッハ数の意味・定義を知ったうえで、次に気になるのが「マッハ数の具体的な求め方・計算式」ではないでしょうか。
マッハ数の計算には音速の知識が不可欠であり、さらに音速は温度によって変化するという点も理解しておく必要があります。
本記事では、マッハ数の基本計算式から、音速と温度の関係式、具体的な計算例、圧縮性流れにおける高度な計算方法まで、段階的にわかりやすく解説します。
物理・工学系の学習者はもちろん、航空機の速度に興味のある方にとっても実践的な内容となっていますので、ぜひ参考にしてください。
目次
マッハ数の基本計算式と求め方
それではまず、マッハ数の基本計算式と求め方について解説していきます。
マッハ数の基本公式
マッハ数の基本公式は非常にシンプルです。
マッハ数(M)= 物体の速度(v)÷ 音速(c)
M = v / c
v:物体(または流れ)の速度(m/s または km/h)
c:その地点における音速(m/s または km/h)
※速度と音速の単位を必ず揃えること
マッハ数は無次元数(単位なし)であり、速度と音速の比であるため単位はキャンセルされます。
計算の際は速度と音速の単位を統一することが最重要ポイントです(両方m/s、または両方km/hで計算する)。
音速の計算式と温度との関係
マッハ数を計算するために必要な音速は、温度によって変化します。
理想気体における乾燥空気中の音速は以下の式で求められます。
音速(c)= √(γ × R × T)
γ(ガンマ):比熱比(乾燥空気の場合 γ ≒ 1.4)
R:気体定数(乾燥空気の場合 R ≒ 287 J/(kg·K))
T:絶対温度(K:ケルビン)= 摂氏温度(℃)+ 273.15
簡略式:c ≒ 20.05 × √T(m/s)、またはc ≒ 331 + 0.6t(m/s)(tは摂氏温度)
気温が高いほど空気分子の運動が活発になり音速が増大し、気温が低いほど音速が遅くなります。
高高度では気温が低いため音速も低下し、同じ飛行速度でも低高度と高高度ではマッハ数が異なる点に注意が必要です。
温度別の音速の値
| 気温(℃) | 絶対温度(K) | 音速(m/s) | 音速(km/h) |
|---|---|---|---|
| −60℃(高高度) | 213.15 K | 约292 m/s | 約1052 km/h |
| −20℃ | 253.15 K | 約319 m/s | 約1147 km/h |
| 0℃ | 273.15 K | 331 m/s | 約1192 km/h |
| 15℃(標準大気) | 288.15 K | 約340 m/s | 約1224 km/h |
| 30℃ | 303.15 K | 約349 m/s | 約1256 km/h |
高高度(例:高度11,000m の対流圏界面付近では気温約−56.5℃)では音速が約295 m/s(約1062 km/h)程度と地上より低くなります。
マッハ数の具体的な計算例
続いては、マッハ数の具体的な計算例について確認していきます。
旅客機のマッハ数を求める
【計算例①】
旅客機が高度11,000mを速度900 km/hで飛行している。この高度での気温は−56.5℃とする。このときのマッハ数を求めよ。
①絶対温度 T = −56.5 + 273.15 = 216.65 K
②音速 c = 20.05 × √216.65 ≒ 20.05 × 14.72 ≒ 295 m/s ≒ 1062 km/h
③マッハ数 M = 900 ÷ 1062 ≒ 0.848
→ この旅客機はマッハ約0.85で飛行している(亜音速〜遷音速域)
これは現実の旅客機(ボーイング787など)の巡航マッハ数(M0.82〜0.87)と非常に近い値であり、実際の設計値と一致することが確認できます。
超音速戦闘機のマッハ数計算
【計算例②】
超音速戦闘機が高度15,000mを速度1,800 km/hで飛行している。この高度での気温は−56.5℃(対流圏界面上部)とする。
①音速 c ≒ 1062 km/h(同条件)
②マッハ数 M = 1800 ÷ 1062 ≒ 1.695
→ 約マッハ1.7の超音速飛行
【計算例③】地上(気温15℃)での銃弾のマッハ数
銃弾の初速:900 m/s(例:5.56mm弾)、気温15℃での音速:340 m/s
マッハ数 M = 900 ÷ 340 ≒ 2.65
→ マッハ約2.65の超音速(銃口付近では衝撃波が発生する)
逆算:マッハ数から速度を求める
マッハ数と音速がわかれば、逆に速度を求めることもできます。
速度(v)= マッハ数(M)× 音速(c)
【計算例】高度10,000m(気温−50℃)でマッハ2.0で飛行する場合の速度は?
①絶対温度 T = −50 + 273.15 = 223.15 K
②音速 c = 20.05 × √223.15 ≒ 20.05 × 14.94 ≒ 299 m/s ≒ 1076 km/h
③速度 v = 2.0 × 1076 ≒ 2152 km/h
このように、マッハ数・音速・速度の3つのうち2つが既知であれば、残り1つを計算できます。
圧縮性流れにおける高度なマッハ数の関係式
続いては、圧縮性流れにおけるより高度なマッハ数の関係式について確認していきます。
等エントロピー流れとマッハ数
超音速流れの設計・解析では、等エントロピー流れ(Isentropic Flow)の関係式が広く使われます。
等エントロピー流れとは、粘性・熱伝導・衝撃波のない理想的な断熱流れのことであり、流れの圧力・密度・温度とマッハ数の関係を以下の式で表します。
よどみ点温度比(T₀/T)= 1 + (γ−1)/2 × M²
よどみ点圧力比(P₀/P)=
^(γ/(γ−1))
よどみ点密度比(ρ₀/ρ)=
^(1/(γ−1))
T₀・P₀・ρ₀:よどみ点(流れが止まった点)での温度・圧力・密度
T・P・ρ:流れの中の局所的な温度・圧力・密度
これらの式はノズル設計・風洞設計・航空機の速度計測(ピトー管)に広く活用される重要な関係式です。
ピトー管とマッハ数の測定
航空機の速度(マッハ数)の測定には、ピトー管(Pitot Tube)による圧力測定が広く使われています。
ピトー管は機体前方に向けて取り付けられた管で、流れの「よどみ点圧力(全圧)P₀」と「静圧P」を測定します。
亜音速の場合、圧力比P₀/Pと等エントロピー関係式からマッハ数を算出します。
超音速の場合は管前方に正面衝撃波が発生するため、より複雑な「ラレーピトー管式」を使ってマッハ数を計算します。
現代の航空機ではADC(大気データコンピュータ)がこれらの計算をリアルタイムで行い、操縦士に対気速度・マッハ数・高度を提供しています。
収縮拡大ノズルとマッハ数分布
ロケットエンジン・超音速風洞の設計において、収縮拡大ノズル(ラバルノズル)は超音速流を生成するための基本的な装置です。
ノズル断面積比とマッハ数の関係(等エントロピー流れ):
A/A* = (1/M) × [(2/(γ+1)) × (1 + (γ−1)/2 × M²)]^((γ+1)/(2(γ−1)))
A:任意断面の断面積、A*:スロート(最小断面積)部の面積
スロートでM=1(音速)を達成し、拡大部で超音速流が形成される
スロート(のど部)でM=1を達成し、ノズルが拡大するにつれてマッハ数が増大します。
H-IIAロケット・スペースXのファルコン9など現代のロケットエンジンもラバルノズルの原理に基づいており、マッハ数の計算がロケット推力設計の根幹をなしています。
マッハ数に関連する重要な無次元数と応用
続いては、マッハ数に関連する重要な無次元数と応用について確認していきます。
レイノルズ数・クヌッセン数との関係
流体力学では、マッハ数のほかにも重要な無次元数があります。
| 無次元数 | 定義 | 物理的意味 |
|---|---|---|
| マッハ数(M) | v / c(速度/音速) | 圧縮性の指標 |
| レイノルズ数(Re) | ρvL / μ(慣性力/粘性力) | 乱流・層流の指標 |
| クヌッセン数(Kn) | λ / L(平均自由行程/特性長さ) | 希薄気体効果の指標 |
| ヌッセルト数(Nu) | hL / k(対流熱伝達/熱伝導) | 熱伝達効率の指標 |
極超音速(M>5)では、マッハ数・レイノルズ数・クヌッセン数のすべてが重要となり、空力加熱・衝撃波・希薄気体効果を同時に考慮した複雑な解析が必要です。
マッハ数と空力加熱
超音速・極超音速飛行では、空力加熱(Aerodynamic Heating)が機体の材料・構造設計における最大の課題のひとつとなります。
よどみ点温度(機体前縁に当たる空気の最高温度)はマッハ数の2乗に比例して急激に上昇します。
よどみ点温度の概算:
T₀ ≒ T × (1 + 0.2 × M²)(γ=1.4の場合)
例:M=3、高度20,000m(T≒217K=−56℃)の場合
T₀ ≒ 217 × (1 + 0.2 × 9) = 217 × 2.8 ≒ 608 K ≒ 335℃
M=10の場合:T₀ ≒ 217 × (1 + 0.2 × 100) = 217 × 21 ≒ 4557 K ≒ 4284℃
スペースシャトル・ソユーズカプセルの大気圏再突入時(M25以上)では表面温度が1600℃以上に達するため、耐熱シールド(TPS:Thermal Protection System)が不可欠となります。
日常的な速度のマッハ数換算
身近な移動手段の速度をマッハ数に換算することで、スケール感を直感的に理解できます。
| 移動手段・現象 | 速度(km/h) | マッハ数(気温15℃) |
|---|---|---|
| 人が歩く | 約5 km/h | 約M0.004 |
| 新幹線(最高速度) | 約320 km/h | 約M0.26 |
| 旅客機(巡航) | 約900 km/h | 約M0.74〜0.85 |
| 音速(基準) | 約1224 km/h | M1.0 |
| コンコルド(巡航) | 約2180 km/h | 約M2.0 |
| スペースシャトル(再突入) | 約27,000 km/h | 約M22〜25 |
まとめ
本記事では、マッハ数の基本計算式(M=v/c)から、音速と温度の関係式(c=√(γRT))、具体的な計算例(旅客機・戦闘機・銃弾など)、圧縮性流れの等エントロピー関係式、ピトー管による測定原理、ラバルノズルとロケット設計、空力加熱まで体系的に解説しました。
マッハ数の計算において最も重要なポイントは、音速が温度によって変化するという点です。
同じ飛行速度でも高度(気温)によってマッハ数が変わるため、条件を正確に把握したうえで計算することが欠かせません。
物理・工学の学習から実際の航空機設計・ロケット工学まで、マッハ数の計算方法を正確に理解することで、流体力学の深い世界への扉が開かれるでしょう。