プラスチック材料を選定するとき、耐熱性の指標として必ず登場するのが「荷重たわみ温度」です。
エンジニアリングプラスチックを使用する自動車部品・電気電子機器・産業機器などの設計現場では、荷重たわみ温度が材料選択の重要な判断基準の一つとして使われています。
しかし「荷重たわみ温度とはどういう意味なのか」「どのように測定するのか」「他の耐熱指標とどう違うのか」という疑問を持つ方も多いでしょう。
本記事では、荷重たわみ温度の定義・測定方法・試験規格・主要プラスチックの数値・材料選定への活用まで詳しく解説いたします。
材料工学・プラスチック設計に携わる方にとって役立つ内容ですので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
荷重たわみ温度とはプラスチックが荷重下で規定のたわみ量に達する温度のことである
それではまず、荷重たわみ温度の基本的な定義と意味について解説していきます。
荷重たわみ温度(HDT:Heat Deflection Temperature、またはDTUL:Deflection Temperature Under Load)とは、プラスチック試験片に一定の曲げ荷重をかけながら温度を上昇させていき、試験片が規定のたわみ量(0.25mm)に達したときの温度のことです。
日本語では「荷重たわみ温度」のほか「熱変形温度」とも呼ばれることがあります。
荷重たわみ温度の定義:プラスチック試験片を3点曲げで支持し、規定の曲げ応力(1.80MPaまたは0.45MPa)をかけながら一定速度で温度を上昇させ、試験片のたわみが0.25mmに達したときの温度。プラスチックが実使用環境で荷重を受けながら変形し始める温度の目安となります。
荷重たわみ温度が重要な理由
プラスチック材料は金属と異なり、温度が上昇するに従って剛性・強度が著しく低下するという特性を持っています。
常温では十分な強度を持つプラスチック部品でも、使用環境温度が高くなると変形・破損が起きるリスクがあります。
このため、プラスチック部品を設計する際には使用環境温度が荷重たわみ温度より十分に低いことを確認することが必須です。
荷重たわみ温度はカタログ・データシートに必ず記載される材料特性値であり、材料の比較・選定において最も基本的な耐熱指標として世界中で活用されています。
特に自動車エンジンルーム・電気電子機器・家電・産業機械など高温環境にさらされる用途では、荷重たわみ温度の確認が設計上の必須事項となっています。
荷重たわみ温度と融点・ガラス転移温度の違い
荷重たわみ温度と混同されやすい耐熱性指標として、融点・ガラス転移温度があります。
| 指標 | 定義 | 特徴 | 適用材料 |
|---|---|---|---|
| 荷重たわみ温度(HDT) | 規定荷重下での規定たわみ到達温度 | 実使用に近い条件での耐熱指標 | 熱可塑性・熱硬化性プラスチック |
| ガラス転移温度(Tg) | 非晶性樹脂がゴム状に転移する温度 | 非晶性樹脂の耐熱上限の指標 | 主に非晶性熱可塑性プラスチック |
| 融点(Tm) | 結晶が溶融する温度 | 結晶性樹脂の耐熱上限の指標 | 結晶性熱可塑性プラスチック |
| 連続使用温度(RTI) | 長期間連続使用できる最高温度 | 長期耐熱性の指標 | 全般のプラスチック |
荷重たわみ温度は融点・ガラス転移温度より一般に低い値となり、実際の荷重下での変形限界温度を示すため、設計上の安全指標として最も実用的な指標とされています。
荷重条件の違い:1.80MPaと0.45MPaの使い分け
荷重たわみ温度の試験では、加える曲げ応力として1.80MPa(高荷重条件)と0.45MPa(低荷重条件)の2種類の条件が規定されています。
1.80MPa条件は構造部材など機械的な荷重がかかる用途、0.45MPa条件は比較的低応力な用途での耐熱性評価に使われます。
同じ材料でも1.80MPa条件の方が低い値、0.45MPa条件の方が高い値が得られる傾向があります。
データシートには両条件の値が記載されることが多いため、使用用途の荷重レベルに合った条件の値を参照することが重要です。
設計現場では1.80MPa条件の値を保守的(安全側)な指標として使用するケースが多くなっています。
荷重たわみ温度の測定方法と試験規格
続いては、荷重たわみ温度の具体的な測定方法と試験規格について確認していきます。
荷重たわみ温度の試験手順
荷重たわみ温度の測定は、国際規格・JIS規格に規定された標準的な手順で行われます。
荷重たわみ温度試験の手順(ISO 75 / JIS K 7191準拠)
①試験片を作製する(標準試験片:長さ80mm×幅10mm×厚さ4mm)
②試験片を3点曲げ(支点間距離64mm)で支持し、中央に規定の荷重をかける
(1.80MPa条件:荷重=1.80×10×4²/(6×32) → 必要荷重を計算して錘を設定)
③シリコーンオイル等の熱媒体浴に試験片を浸漬する
④一定の昇温速度(120℃/h±12℃/h)で温度を上昇させる
⑤試験片の中央部のたわみ量を連続監視し、0.25mmに達したときの温度を読み取る
⑥同条件で最低2本の試験片を測定し、平均値を荷重たわみ温度とする
試験片の作製方法(射出成形・圧縮成形・機械加工)・アニール処理の有無・試験片の向き(フラット方向・エッジワイズ方向)によって測定値が変わるため、試験条件を明記した上で比較・参照することが正確な材料評価の前提となります。
荷重たわみ温度の主要試験規格
荷重たわみ温度の試験規格として、国際的に主要なものを確認しましょう。
| 規格名 | 発行機関 | 概要 |
|---|---|---|
| ISO 75-1・75-2・75-3 | ISO(国際標準化機構) | プラスチックの荷重たわみ温度試験の国際標準。方法A(1.80MPa)・方法B(0.45MPa)・方法C(8.00MPa)を規定。 |
| JIS K 7191-1・-2・-3 | JIS(日本産業規格) | ISO 75に準拠した日本規格。ISO 75とほぼ同等の内容。 |
| ASTM D648 | ASTM(米国材料試験協会) | 米国規格。ISO 75と基本は同様だが、試験片寸法・条件に一部差異がある。 |
日本の設計現場ではJIS K 7191またはISO 75準拠のデータが基本となりますが、米国規格ASTM D648のデータが記載されているデータシートも多く、規格の違いによる数値の差異に注意が必要です。
ASTM D648とISO 75では試験片の支点間距離・荷重計算方法が異なるため、同じ材料でも測定値が異なる場合があります。
エッジワイズ試験とフラット試験の違い
荷重たわみ温度試験では試験片の向きによって「エッジワイズ(edgewise)」と「フラット(flatwise)」の2種類の配置方法があります。
エッジワイズ配置では試験片を縦向き(高さ方向が10mm)に配置するため、曲げ剛性が高く荷重たわみ温度も高い値が得られる傾向があります。
フラット配置では試験片を横向き(高さ方向が4mm)に配置するため、曲げ剛性が低く荷重たわみ温度も低い値になりやすいです。
ISO 75ではエッジワイズが標準的な配置方法として規定されており、データシートの値はエッジワイズが多いですが、試験片の向きを必ず確認した上でデータを比較することが重要です。
主要プラスチックの荷重たわみ温度と材料比較
続いては、代表的なプラスチックの荷重たわみ温度の数値と材料比較を確認していきます。
汎用プラスチックの荷重たわみ温度
日常的に広く使われる汎用プラスチックの荷重たわみ温度(方法A:1.80MPa条件)の概算値を確認しましょう。
| 材料名 | 略称 | 荷重たわみ温度(℃)1.80MPa条件 | 主な特徴・用途 |
|---|---|---|---|
| ポリエチレン(低密度) | LDPE | 35〜50 | 包装フィルム・袋・チューブ |
| ポリエチレン(高密度) | HDPE | 60〜80 | 容器・パイプ・シート |
| ポリプロピレン | PP | 55〜65 | 自動車内装・容器・繊維 |
| ポリスチレン | PS | 70〜90 | 包装・食品容器・家電部品 |
| ABS樹脂 | ABS | 80〜100 | 家電外装・自動車内装・玩具 |
| 塩化ビニル | PVC | 55〜80 | 建材・パイプ・フィルム |
汎用プラスチックは荷重たわみ温度が比較的低く(50〜100℃程度)、高温環境での使用には制限があります。
100℃を超える使用環境にはエンジニアリングプラスチックの選択が基本となります。
エンジニアリングプラスチックの荷重たわみ温度
高い機械的特性・耐熱性を持つエンジニアリングプラスチック(エンプラ)の荷重たわみ温度を確認しましょう。
| 材料名 | 略称 | 荷重たわみ温度(℃)1.80MPa条件 | 主な特徴・用途 |
|---|---|---|---|
| ポリアミド6(ナイロン6) | PA6 | 65〜80(未充填)・190〜210(GF30%) | 機械部品・ギア・コネクタ |
| ポリアミド66(ナイロン66) | PA66 | 70〜90(未充填)・200〜250(GF30%) | 自動車エンジン周辺・工業用部品 |
| ポリカーボネート | PC | 125〜135 | 光学部品・電子機器・建材 |
| ポリアセタール | POM | 100〜110 | 精密機械部品・ギア・軸受 |
| ポリブチレンテレフタレート | PBT | 55〜70(未充填)・200〜210(GF30%) | 電気電子部品・コネクタ |
| 変性ポリフェニレンエーテル | m-PPE | 100〜140 | OA機器・自動車部品 |
ガラス繊維強化(GF)によって荷重たわみ温度が劇的に向上することが表から明確にわかります。
PA6・PA66・PBTなどはガラス繊維30%添加(GF30%)で荷重たわみ温度が200℃前後まで上昇し、自動車エンジンルームなどの高温部品への適用が可能になります。
スーパーエンジニアリングプラスチックの荷重たわみ温度
さらに高い耐熱性を要求される用途向けのスーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)の荷重たわみ温度も確認しましょう。
| 材料名 | 略称 | 荷重たわみ温度(℃)1.80MPa条件 | 主な特徴・用途 |
|---|---|---|---|
| ポリフェニレンスルフィド | PPS | 130〜150(未充填)・260〜270(GF40%) | 電気・自動車高温部品 |
| ポリエーテルエーテルケトン | PEEK | 150〜160(未充填)・300以上(GF30%) | 航空・医療・半導体関連 |
| 液晶ポリマー | LCP | 180〜240 | 精密電子部品・コネクタ |
| ポリイミド | PI | 300以上 | 航空宇宙・半導体・高温機器 |
| ポリエーテルスルホン | PES | 200〜220 | 医療・食品機器・膜材料 |
PEEKやポリイミドなどのスーパーエンプラは荷重たわみ温度が非常に高く、航空宇宙・半導体製造装置など金属代替が求められる過酷な高温環境での使用が可能です。
ただし材料コストも非常に高いため、必要な耐熱レベルに応じた最適材料の選択が経済的な設計の観点から不可欠です。
荷重たわみ温度を活用した材料選定と設計上の注意点
続いては、荷重たわみ温度を実際の材料選定と設計にどう活用するかを確認していきます。
使用環境温度と荷重たわみ温度の安全マージンの設定
荷重たわみ温度は材料が変形し始める目安の温度であり、この温度での使用は推奨されません。
一般的な設計指針として、使用最高温度は荷重たわみ温度の80%以下とすることが安全な設計の目安とされています。
使用温度と荷重たわみ温度の安全マージンの目安
例:荷重たわみ温度 = 130℃(PC材料)の場合
推奨使用最高温度 = 130 × 0.8 = 104℃
安全マージン = 130 – 104 = 26℃
使用環境温度が100℃程度であれば、このPC材料は耐熱性の観点から使用可能と判断できます。
ただし、長期使用・繰り返し荷重・化学薬品の影響がある場合はさらに余裕を持たせる必要があります。
特に長期連続使用・安全に関わる部品・精度が要求される部品では、安全マージンをさらに大きくとることが推奨されます。
自動車メーカーや電気機器メーカーには、各部位の最高使用温度仕様が定められており、それに合った荷重たわみ温度の材料を選定する仕組みが整備されています。
充填材(フィラー)添加による荷重たわみ温度の向上
材料の荷重たわみ温度を向上させるための最も有効な方法は、充填材(フィラー)の添加です。
代表的な充填材と荷重たわみ温度への効果を確認しましょう。
| 充填材の種類 | 荷重たわみ温度向上効果 | その他の効果 |
|---|---|---|
| ガラス繊維(GF) | 非常に大きい(数十〜百数十℃向上) | 強度・剛性大幅向上・成形収縮率低下 |
| 炭素繊維(CF) | 大きい(GFと同等以上) | 高強度・高弾性率・軽量 |
| タルク(タルク) | 中程度 | 剛性向上・寸法安定性改善 |
| マイカ(雲母) | 中程度 | 剛性・寸法安定性・外観改善 |
| 炭酸カルシウム | 小さい | コスト低減・剛性やや向上 |
ガラス繊維添加は荷重たわみ温度向上に最も効果的ですが、表面外観の悪化・異方性の増大・比重増加・ウェルドライン強度低下などの副作用もあります。
充填材の種類・添加量・形状(繊維状・板状・粒状)の最適化が、目的とする耐熱性と機械的特性のバランスを得るための重要な設計変数です。
荷重たわみ温度測定における注意事項とデータ解釈
荷重たわみ温度を設計に活用する際に注意すべき重要な点があります。
まず、荷重たわみ温度は短時間試験から得られる値であり、長期間の高温使用環境での耐久性(クリープ特性・熱劣化)とは別の指標であることを認識する必要があります。
高温長期使用が想定される場合は、荷重たわみ温度に加えてクリープ試験・熱老化試験のデータも合わせて参照することが重要です。
また、吸湿性の高い材料(PA系など)では、吸湿状態によって荷重たわみ温度が乾燥時と大きく異なる場合があります。
水分を吸った状態(吸湿状態)では剛性が低下するため、実使用環境の湿度条件を考慮した吸湿状態でのデータ確認も重要な設計上の注意点です。
さらに、試験片の成形条件(成形温度・冷却速度・アニール処理など)が荷重たわみ温度の実測値に影響を与えるため、メーカーのデータシート値と自社成形品の実測値に差がある場合には成形条件の確認が必要です。
まとめ
本記事では、荷重たわみ温度の定義・測定方法・試験規格・主要プラスチック材料の数値比較・材料選定での活用方法・充填材による向上効果・データ解釈の注意点まで幅広く解説いたしました。
荷重たわみ温度とは、プラスチック試験片に規定の曲げ荷重をかけながら昇温し、たわみが0.25mmに達したときの温度であり、プラスチックの耐熱性を表す最も基本的な指標です。
試験規格はISO 75・JIS K 7191が国際標準で、荷重条件(1.80MPa・0.45MPa)・試験片の向きによって値が変わります。
ガラス繊維添加による荷重たわみ温度の大幅向上と、使用最高温度を荷重たわみ温度の80%以下に設定することが材料設計の基本的な考え方です。
吸湿性・長期クリープ・熱劣化などの要因も合わせて考慮した総合的な材料評価が、信頼性の高いプラスチック製品設計の実現につながるでしょう。