製造業や機械設計の現場では、図面に記載される寸法公差は品質を左右する非常に重要な要素です。
しかし、「上偏差・下偏差の書き方がよくわからない」「±表記とどう使い分ければいいの?」と悩む方も多いのではないでしょうか。
寸法公差の表記方法は、JIS規格に基づいたルールがあり、正確に理解しておくことで図面の読み間違いや製造ミスを防ぐことができます。
本記事では、寸法公差の書き方について、図面での表記方法や記号、上偏差・下偏差の意味、CADでの記入方法まで、わかりやすく解説していきます。
図面作成に携わる方はもちろん、図面を読む立場の方にもぜひ参考にしてほしい内容です。
目次
寸法公差の書き方は上偏差・下偏差を正しく理解することが基本
それではまず、寸法公差の基本的な考え方と、上偏差・下偏差の意味について解説していきます。
寸法公差とは、製品の寸法に対して許容できる誤差の範囲のことを指します。
加工において完全に同じ寸法を出し続けることは現実的に難しいため、「この範囲内であれば合格」という幅を設けるのが公差の考え方です。
公差を正しく図面に記載するためには、まず「上偏差」と「下偏差」という概念を把握することが不可欠でしょう。
上偏差(ES・es)とは、基準寸法に対して許容できる最大の偏差(プラス方向)のことです。
下偏差(EI・ei)とは、基準寸法に対して許容できる最小の偏差(マイナス方向)のことです。
大文字(ES・EI)は穴側、小文字(es・ei)は軸側に使用します。
例えば、基準寸法が50mmの場合、上偏差が+0.025、下偏差が0であれば、「50mmから50.025mmの間」が合格範囲となります。
この関係性を図面上で正確に表現することが、製造品質を保証する第一歩です。
上偏差と下偏差の関係性
上偏差と下偏差の差分が公差域(IT公差)となります。
公差域が小さいほど精密な加工が求められ、コストも上がる傾向にあります。
設計段階では、必要以上に厳しい公差を設定しないことも重要なポイントです。
公差域 = 上偏差 − 下偏差
例)上偏差 +0.025、下偏差 0 の場合
公差域 = 0.025 − 0 = 0.025mm
基準寸法と許容限界寸法の違い
基準寸法とは設計上の目標となる寸法のことで、許容限界寸法とは実際に合格と認められる最大・最小の寸法値のことです。
許容最大寸法は「基準寸法+上偏差」、許容最小寸法は「基準寸法+下偏差」で求めることができます。
この2つの数値の範囲に入っている部品が、図面上の公差を満たした合格品となります。
JIS規格における公差クラスの概要
JIS B 0401では、公差は「IT公差等級」として定められており、IT01からIT18まで段階があります。
数字が小さいほど精度が高く、大きいほど精度が低い(許容範囲が広い)ことを意味します。
一般的な機械部品ではIT6〜IT10程度がよく使われる範囲でしょう。
図面での寸法公差の表記方法と記号の使い方
続いては、実際の図面における寸法公差の表記方法と記号について確認していきます。
図面に公差を記入する方法はいくつかありますが、大きく分けると「数値による直接表記」と「公差記号による表記」の2種類があります。
それぞれの特徴を正しく理解して、場面に応じた使い方をすることが重要です。
数値による直接表記(上偏差・下偏差の記入)
最もシンプルな表記方法が、上偏差と下偏差を数値で直接記入する方法です。
寸法数値の右側に、上偏差を上段、下偏差を下段に小さく記入するのが一般的なルールです。
表記例)
50 +0.025 / 0
→ 50mmを基準に、最大50.025mm・最小50mmが合格範囲
30 +0.010 / −0.010
→ 30mmを基準に、最大30.010mm・最小29.990mmが合格範囲
上偏差がプラスの場合は「+」を必ず付け、下偏差がマイナスの場合は「−」を付けます。
ゼロの場合は「0」と記入し、符号は不要です。
±表記の使い方と注意点
上偏差と下偏差が同じ絶対値の場合、「±(プラスマイナス)」を使った簡略表記が可能です。
例えば「50 ±0.05」と記載すれば、49.95mm〜50.05mmが合格範囲となります。
±表記は便利な一方で、使いすぎると設計意図が伝わりにくくなるため、必要な箇所に絞って使用することが推奨されます。
また、±表記は対称公差を意味するため、上下で異なる許容値が必要な場合は必ず上偏差・下偏差を個別に記入しましょう。
公差記号(はめあい記号)による表記方法
JIS規格では、寸法の後にアルファベットと数字を組み合わせたはめあい記号を使った表記も認められています。
例えば「50H7」や「50f6」といった形式がこれにあたります。
| 表記例 | 意味 | 対象 |
|---|---|---|
| 50H7 | 基準寸法50mm、穴の公差クラスH、IT7級 | 穴側(大文字) |
| 50f6 | 基準寸法50mm、軸の公差クラスf、IT6級 | 軸側(小文字) |
| 50H7/f6 | 穴と軸の組み合わせ(はめあい)の表記 | はめあい指定時 |
この表記を使うことで、数値をすべて記入しなくても公差の内容をコンパクトに伝えられます。
ただし、相手が記号の意味を正確に読める前提での表記となるため、場合によっては数値と併記することも有効でしょう。
普通公差と個別公差の違いと使い分け
続いては、公差の種類である「普通公差」と「個別公差」の違いについて確認していきます。
図面上に記入される公差には、すべての寸法に個別に記入するものだけでなく、図面全体に適用される「普通公差」という概念も存在します。
この2つを正しく使い分けることで、図面がシンプルになり、読み間違いも減らせます。
普通公差(一般公差)とは
普通公差(一般公差)とは、図面内で個別に公差が指定されていない寸法に対して、一括で適用される公差のことです。
JIS B 0405では、普通公差の等級がf(精級)・m(中級)・c(粗級)・v(最粗級)の4段階で定められています。
図面の表題欄付近に「一般公差 JIS B 0405-m」などと記載することで、図面全体に適用されます。
個別公差を指定すべき箇所とは
はめあい部分や、機能上重要な寸法には必ず個別に公差を記入することが必要です。
普通公差では精度が不足する箇所、または逆に普通公差よりも緩くてよい箇所にも、明示的に数値を記入するのが設計の基本となります。
公差を記入しない=普通公差が適用される、という認識を持ちながら図面を作成することが大切です。
普通公差と個別公差の使い分けまとめ
| 種類 | 記入方法 | 適用場面 |
|---|---|---|
| 普通公差 | 表題欄または注記欄に一括記入 | 機能上特別な精度が不要な寸法 |
| 個別公差 | 各寸法に直接記入 | はめあい部・機能上重要な寸法 |
両者を適切に使い分けることで、図面の情報量を最適化し、製造現場での混乱を防ぐことができます。
不必要にすべての寸法に個別公差を記入すると、図面が複雑になりすぎて読み間違いの原因になることもあるため注意が必要でしょう。
CADでの寸法公差の記入方法
続いては、CADソフトを使用した場合の寸法公差の記入方法について確認していきます。
近年の図面作成は2D・3D CADを使用するケースがほとんどであり、CAD上での公差の記入方法を正しく把握しておくことは非常に重要です。
代表的なCADソフトを例に、公差記入の手順と注意点を解説していきましょう。
AutoCADでの公差記入の基本操作
AutoCADでは、寸法スタイルの設定から公差の表示形式を選択することができます。
「寸法スタイル管理」から「公差」タブを開き、表示形式として「偏差」「対称」「限界値」などの中から目的に応じた形式を選択します。
上偏差・下偏差の数値はそれぞれのフィールドに入力することで、図面上に正確に反映されます。
スタイルとして保存しておくことで、同一の公差形式を繰り返し使い回すことが可能になり、作業効率が向上するでしょう。
SolidWorksやFusion 360での3D図面への公差記入
3D CADでは、モデルから生成したドローイング(2D図面)に対して公差を記入するのが一般的な手順です。
SolidWorksでは寸法を右クリックして「プロパティ」を開き、公差・精度の欄から設定が可能です。
Fusion 360でも同様に、ドローイングモードで寸法をダブルクリックすることで公差の設定ダイアログが表示されます。
3D CADの場合、モデルの寸法と図面の寸法が連動しているため、公差はあくまで図面上の注記として付与されるものという認識が重要です。
CADで公差を記入する際の注意点
CADで公差を記入する際に特に注意したいのが、文字サイズや配置のルールです。
上偏差・下偏差の文字は基準寸法数値よりも小さく設定するのが一般的であり、JISの製図規格に準拠したフォントや文字高さを使用することが推奨されます。
CADで公差を記入する際の主なチェックポイント
・上偏差は上段、下偏差は下段に配置されているか
・符号(+・−)の記入漏れはないか
・文字サイズは基準寸法と整合しているか
・はめあい記号を使う場合、アルファベットの大文字・小文字を正しく使い分けているか
出力した図面が意図した通りに表示されているかを、印刷プレビューや実際の紙出力で必ず確認することをおすすめします。
デジタル上での見え方と印刷後では、文字サイズや配置がずれることも少なくないためです。
まとめ
本記事では、寸法公差の書き方について、上偏差・下偏差の基本的な意味から、図面での表記方法、記号の使い方、普通公差と個別公差の違い、CADでの記入方法まで幅広く解説しました。
寸法公差は製品の品質や組み立て精度を左右する非常に重要な情報であり、図面に正確かつわかりやすく記入することが設計者に求められる大切なスキルです。
±表記・上偏差下偏差表記・はめあい記号など、場面に応じた使い分けができるようになると、図面の質が大きく向上するでしょう。
また、普通公差と個別公差を適切に組み合わせることで、図面のシンプルさと情報の正確さを両立させることが可能です。
CADを使用する場合も、ソフトの機能を正しく理解し、JIS規格に準拠した表記を心がけることが現場での信頼につながります。
今回の内容を参考に、ぜひ自身の図面作成スキルを一段階引き上げてみてください。