機械加工や製品設計の現場では、部品の寸法をどこまで正確に仕上げるかが品質を左右する重要なポイントです。
しかし、「公差ってどう決めればいい?」「JIS規格の標準公差ってどんな基準なの?」と疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
本記事では、寸法公差の一覧表はどのようなものか、JIS規格による標準公差(IT等級・基本寸法・精度・機械加工との関係)をわかりやすく解説していきます。
設計や加工の実務に直結する内容ですので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
寸法公差の一覧表はJIS規格のIT等級で整理されている
それではまず、寸法公差の一覧表がどのような仕組みで整理されているかについて解説していきます。
寸法公差の一覧表とは、JIS規格(JIS B 0401)に定められた標準公差をまとめた表のことです。
この表はIT等級(International Tolerance Grade)と基本寸法の組み合わせによって公差値が決まる構造になっています。
IT等級はIT01からIT18までの20段階に分かれており、数字が小さいほど精度が高く、数字が大きいほど公差が大きく(精度が低く)なります。
IT等級はIT01・IT0・IT1〜IT18の合計20段階で構成されており、IT01が最も高精度な等級です。
機械加工で一般的に使用されるのはIT5〜IT11の範囲が多く、用途に応じて適切な等級を選択することが求められます。
基本寸法とは、公差を設定する際の基準となる寸法のことで、例えば「φ50mmの穴」であれば50mmが基本寸法となります。
基本寸法が大きくなるほど、同じIT等級であっても公差値(許容される誤差の幅)は大きくなる点が特徴です。
IT等級の分類と精度の目安
IT等級はその精度レベルによって大きく3つのグループに分けて考えられています。
IT01〜IT4は主にゲージや精密測定器などに使われる非常に高精度な領域です。
IT5〜IT11は一般的な機械加工部品に広く用いられる実用的な領域で、はめあいの精度管理にも活用されています。
IT12〜IT18は粗加工や鋳造・プレスなど、比較的大きな誤差が許容される加工に対応する領域です。
標準公差の数値の決まり方
標準公差の数値はJIS規格によって数式的に定義されており、基本寸法Dに対して公差単位iを用いて計算されます。
公差単位 i(μm) = 0.45 × ∛D + 0.001 × D
(Dは基本寸法の代表値をmm単位で表したもの)
例:基本寸法が50mmの場合、代表値D=√(30×50)≒38.7mmを使用して計算します。
この公差単位iをもとに、各IT等級に応じた倍数をかけることで標準公差の数値が決定されます。
このような数学的な根拠があるからこそ、JIS規格の一覧表は全世界で共通して使用できる信頼性の高いものとなっています。
寸法公差一覧表の見方
寸法公差の一覧表は、縦軸に基本寸法の区分、横軸にIT等級が並ぶ形式が一般的です。
以下にIT5〜IT11の範囲で代表的な基本寸法区分ごとの標準公差値(単位:μm)の例を示します。
| 基本寸法区分(mm) | IT5 | IT6 | IT7 | IT8 | IT9 | IT10 | IT11 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 3以下 | 4 | 6 | 10 | 14 | 25 | 40 | 60 |
| 3〜6 | 5 | 8 | 12 | 18 | 30 | 48 | 75 |
| 6〜10 | 6 | 9 | 15 | 22 | 36 | 58 | 90 |
| 10〜18 | 8 | 11 | 18 | 27 | 43 | 70 | 110 |
| 18〜30 | 9 | 13 | 21 | 33 | 52 | 84 | 130 |
| 30〜50 | 11 | 16 | 25 | 39 | 62 | 100 | 160 |
| 50〜80 | 13 | 19 | 30 | 46 | 74 | 120 | 190 |
| 80〜120 | 15 | 22 | 35 | 54 | 87 | 140 | 220 |
| 120〜180 | 18 | 25 | 40 | 63 | 100 | 160 | 250 |
| 180〜250 | 20 | 29 | 46 | 72 | 115 | 185 | 290 |
この表を参照することで、基本寸法と要求精度(IT等級)から許容できる寸法の誤差幅を一目で確認できます。
JIS規格の標準公差とはめあいの関係を理解する
続いては、JIS規格の標準公差とはめあいの関係について確認していきます。
標準公差はそれ単体で使うのではなく、「はめあい」の設計と組み合わせることで初めてその真価を発揮します。
はめあいとは、穴と軸のように2つの部品を組み合わせる際に、どの程度のすき間や締め代を持たせるかを定めた概念です。
JIS B 0401では、穴基準はめあいと軸基準はめあいの2つの方式が定められています。
穴基準はめあいと軸基準はめあいの違い
穴基準はめあいとは、穴の下の寸法許容差をゼロに固定し、軸の公差域を変化させることではめあいを調整する方式です。
軸基準はめあいとは反対に、軸の上の寸法許容差をゼロに固定し、穴の公差域を変化させる方式です。
一般的には穴基準はめあいの方が多く採用されており、穴の加工よりも軸の加工の方が精度調整しやすいという実務上の理由があります。
すきまばめ・中間ばめ・しまりばめの分類
はめあいの種類は大きく3つに分類されます。
すきまばめ:穴が軸よりも常に大きく、組み合わせると必ずすき間が生じる。回転や摺動が必要な部品に使用。
中間ばめ:穴と軸の公差が重なる範囲にあり、すき間になる場合も締め代になる場合もある。位置決めなどに使用。
しまりばめ:軸が穴よりも常に大きく、圧入や焼きばめによって固定する。高い固定力が必要な部品に使用。
これらの使い分けは、部品の機能や動作条件によって設計者が適切に判断する必要があります。
公差域クラスの記号の読み方
JIS規格では公差域クラスを記号で表し、例えば「H7」や「h6」のように英字と数字の組み合わせで表記します。
英字は公差域の位置(基準線からのずれ方向)を示し、大文字が穴、小文字が軸を表しています。
数字はIT等級を示しており、「H7/h6」という表記は穴がH7、軸がh6のはめあいを意味するということです。
この組み合わせを設計図面に明記することで、加工者が迷うことなく適切な精度で部品を仕上げられるようになります。
機械加工の種類と対応するIT等級の目安
続いては、機械加工の種類とそれぞれに対応するIT等級の目安について確認していきます。
設計段階でIT等級を決める際には、どの加工方法が適用されるかを踏まえて現実的な精度を設定することが重要です。
加工方法によって達成できる精度には限界があり、IT等級が加工コストに直結する点も見落とせません。
高精度加工に対応するIT等級
研削加工やホーニング加工、ラップ仕上げなどの高精度加工では、IT5〜IT6程度の精度を実現することができます。
これらの加工は精密な軸受け穴や摺動面など、高い寸法精度が要求される箇所に適用されます。
コストは高くなりますが、機能上の信頼性を確保するためには欠かせない加工方法です。
一般的な切削加工に対応するIT等級
旋盤加工やフライス加工、ボール盤加工などの一般的な切削加工では、IT7〜IT10程度の精度が標準的です。
特にIT7〜IT8は機械加工の現場で最もよく指定される等級であり、コストと精度のバランスが取れた領域といえます。
設計の現場では「精度はできる限り高く」という発想になりがちですが、IT等級を1段階上げるだけで加工コストが大幅に増加することがあります。
機能上必要な最低限の精度をしっかり見極め、過剰品質にならないよう適切なIT等級を選定することが重要です。
粗加工・板金・鋳造に対応するIT等級
プレス加工や鋳造、粗削りなどの加工方法ではIT12〜IT14程度が一般的な目安となります。
これらの加工は寸法精度よりも形状の大まかな成形を目的とするため、公差が大きく設定されます。
以下の表に加工方法とIT等級の目安をまとめましたので、参考にしてください。
| 加工方法 | 対応するIT等級の目安 |
|---|---|
| ラップ仕上げ・ホーニング | IT4〜IT5 |
| 研削加工 | IT5〜IT7 |
| 旋削・フライス加工(精削) | IT7〜IT9 |
| 旋削・フライス加工(荒削り) | IT9〜IT11 |
| プレス加工 | IT10〜IT13 |
| 鋳造・ダイカスト | IT12〜IT16 |
| 砂型鋳造・粗加工 | IT15〜IT18 |
寸法公差の設計・図面への正しい記載方法
続いては、寸法公差を設計図面へ正しく記載する方法について確認していきます。
どれほど正確な公差値を決定しても、図面への記載方法を誤ると加工現場での混乱を招いてしまいます。
JIS規格に基づいた正しい表記方法を身につけることが、設計品質を高める第一歩といえます。
上の寸法許容差と下の寸法許容差の表記
寸法公差の図面記載では、基本寸法に続けて上の寸法許容差(上限偏差)と下の寸法許容差(下限偏差)を記載します。
例:50 +0.025 / 0(上の寸法許容差+0.025mm、下の寸法許容差0mm)
この場合、許容される寸法の範囲は50.000mm〜50.025mmとなります。
公差幅は0.025mmであり、これはIT7・基本寸法区分30〜50mmの標準公差値と一致します。
上下の許容差が等しい場合は「±0.05」のようにプラスマイナスで記載することも可能です。
公差域クラスによる簡略記載
図面に「50H7」のように公差域クラスで記載する方法も広く使われています。
この方式では数値を直接書かなくても、JISの一覧表を参照することで対応する許容差が明確になります。
受け取った加工業者がJIS規格を共通の基準として使用するため、公差域クラス表記は国際的な製造取引においても非常に有効です。
普通公差(一般公差)との使い分け
個別に公差が指定されていない寸法については、JIS B 0405(普通公差)が適用されるのが一般的です。
普通公差は「精級・中級・粗級・極粗級」の4段階があり、図面の表題欄などに「JIS B 0405-m」(中級の意味)のように一括指定します。
個別公差と普通公差を適切に使い分けることで、図面をシンプルに保ちながら必要な精度情報を正確に伝えることができます。
まとめ
本記事では、「寸法公差の一覧表はどのようなものか、JIS規格による標準公差を解説」というテーマで、IT等級の仕組みから機械加工との関係、図面記載方法まで幅広く解説しました。
寸法公差はJIS B 0401に基づくIT等級と基本寸法の組み合わせで管理されており、IT01〜IT18の20段階で精度が定義されています。
機械加工の現場ではIT5〜IT11が主に使用され、加工方法に応じた適切なIT等級の選定がコストと品質のバランスを左右します。
はめあいの設計においては、穴基準・軸基準の方式と公差域クラスの記号を正しく理解することが欠かせません。
また、図面への記載方法も個別公差と普通公差を適切に使い分けることで、加工現場との認識のズレを防ぐことができます。
本記事を参考に、設計・加工の実務においてJIS規格の寸法公差を正しく活用していただければ幸いです。