ネルンストの式を理解したあとに多くの方が直面するのが、「実際の計算問題をどうやって解けばよいか」という壁です。
理論はわかっていても、具体的な問題に当てはめて解くとなると、どこで詰まるかは人それぞれです。
本記事では、ネルンストの式の代表的な例題を、濃度電池・pH計算・酸化還元反応など多様なタイプにわたって取り上げ、それぞれの解き方を詳しく解説します。
標準電極電位の使い方・実際の電位の求め方など、試験や研究でよく問われるポイントも含めて丁寧に説明しますので、ぜひ最後まで読んでみてください。
目次
ネルンストの式の計算問題を解くための核心:解法の型を身につける
それではまず、ネルンストの式の計算問題に共通する解法の型について解説していきます。
どのタイプの問題であっても、基本的な解法の流れは共通しています。
解法の基本フロー
ネルンストの式を使う計算問題は、以下のフローで解くことができます。
① 問題の電極反応(または全電池反応)を書き出す
② 酸化体・還元体・電子数 n を確認する
③ 各物質の濃度(または分圧)を確認し、反応商 Q を設定する
④ 標準電極電位 E° を表または問題文から確認する
⑤ E = E° – (0.0592/n) × log Q に数値を代入する
⑥ 電池の場合は E_cell = E_正極 – E_負極 を計算する
この6ステップを意識することで、問題の見通しが立ちやすくなります。
特に重要なのはステップ③の反応商 Q の設定であり、多くの失点はここでの誤りに起因します。
よくある計算ミスとその対策
ネルンストの式の計算問題でよく見られるミスをまとめます。
| よくあるミス | 原因 | 対策 |
|---|---|---|
| Q の分子・分母が逆 | 酸化体・還元体の混同 | 反応式を書いてから Ox と Red を特定する |
| 固体の活量を濃度で入れる | 活量ルールの忘れ | 固体・純液体は活量=1と明記して除外 |
| n の値を誤る | 反応式のバランスを確認していない | 必ず半反応式をバランスさせてから n を読む |
| 温度補正を忘れる | 25℃以外の温度で0.0592を使う | 問題で温度が指定されたら RT/nF を計算する |
| 対数の底を間違える | ln と log の混同 | 0.0592 を使う場合は log(常用対数)と覚える |
25℃での便利な近似値の活用
25℃での計算では、次の近似値を覚えておくと便利です。
log 10 = 1、log 100 = 2、log 0.1 = -1 などの基本値
0.0592 / 1 = 0.0592 V(n=1 の場合)
0.0592 / 2 = 0.0296 V(n=2 の場合)
0.0592 / 3 ≈ 0.0197 V(n=3 の場合)
Q が10の整数乗になるよう設定されている問題では、計算が非常にシンプルになります。
例題1:単純な半電池電位の計算
続いては、半電池電位を求める基本的な計算問題を確認していきます。
まず最もシンプルなタイプの問題から始め、ネルンストの式の適用感覚を養いましょう。
例題1-A:亜鉛電極の電位計算
【問題】
Zn²⁺ 濃度が 0.0010 mol/L の溶液に亜鉛を浸した電極の電位を求めよ。
E°(Zn²⁺/Zn) = -0.76 V、温度は25℃とする。
まず電極反応を確認します。Zn²⁺ + 2e⁻ → Zn で、n = 2 です。
Zn は固体なので活量 = 1。反応商は Q = 1/[Zn²⁺] = 1/0.0010 = 1000 となります。
E = -0.76 – (0.0592/2) × log 1000
= -0.76 – 0.0296 × 3
= -0.76 – 0.089
= -0.849 V
Zn²⁺ 濃度が低い(0.0010 mol/L)ため、電極電位は標準値より負方向にシフトし、-0.849 V となります。
例題1-B:水素電極の電位計算
【問題】
pH = 3.0 の溶液中での水素電極の電位を求めよ。
水素分圧は1 atm、温度は25℃とする。
水素電極の反応は 2H⁺ + 2e⁻ → H₂ で、n = 2 です。
Q = P(H₂) / [H⁺]² = 1 / (10⁻³)² = 1 / 10⁻⁶ = 10⁶
E = 0 – (0.0592/2) × log 10⁶
= -0.0296 × 6
= -0.178 V
あるいは、水素電極ではよく知られた簡略式 E = -0.0592 × pH(水素分圧 = 1 atm の場合)を用いると:E = -0.0592 × 3.0 = -0.178 V と同じ答えが得られます。
例題1-C:鉄(III)/鉄(II)電極の計算
【問題】
[Fe³⁺] = 0.10 mol/L、[Fe²⁺] = 0.010 mol/L のとき、Fe³⁺/Fe²⁺ 電極の電位を求めよ。
E°(Fe³⁺/Fe²⁺) = +0.77 V、25℃とする。
反応は Fe³⁺ + e⁻ → Fe²⁺ で、n = 1。Q = [Fe²⁺]/[Fe³⁺] = 0.010/0.10 = 0.10
E = 0.77 – (0.0592/1) × log 0.10
= 0.77 – 0.0592 × (-1)
= 0.77 + 0.059
= 0.829 V
Fe²⁺ よりも Fe³⁺ の濃度が高い(Q
例題2:濃度電池(濃淡電池)の起電力計算
続いては、濃度電池の起電力を求める問題を確認していきます。
濃度電池はネルンストの式の典型的な応用問題であり、試験でも頻出のテーマです。
例題2-A:銅濃淡電池の起電力
【問題】
Cu | CuSO₄(c₁ = 0.10 mol/L)|| CuSO₄(c₂ = 1.0 mol/L)| Cu という濃淡電池の起電力を求めよ(25℃)。
高濃度側(c₂ = 1.0 mol/L)が正極(カソード)、低濃度側(c₁ = 0.10 mol/L)が負極(アノード)です。
n = 2 として各電極電位を計算します。
E_正極 = 0.34 – (0.0592/2) × log(1/1.0) = 0.34 – 0 = 0.34 V
E_負極 = 0.34 – (0.0592/2) × log(1/0.10) = 0.34 – 0.0296 = 0.310 V
E_cell = 0.34 – 0.310 = 0.030 V
または直接次の簡略式を用いることもできます。
E_cell = (0.0592/n) × log(c₂/c₁) = (0.0592/2) × log(1.0/0.10) = 0.0296 × 1 = 0.030 V
濃度比が10倍のとき、n=2 の濃淡電池の起電力は約30 mV という結果は、ネルンスト応答の定量的な感覚として覚えておく価値があります。
例題2-B:水素濃淡電池と電位差
【問題】
pH = 2.0 の溶液と pH = 5.0 の溶液の間で、水素電極を使った濃淡電池を構成したときの起電力を求めよ(水素分圧 = 1 atm、25℃)。
水素電極の電位は E = -0.0592 × pH(1 atm の場合)で計算できます。
E(pH=2) = -0.0592 × 2.0 = -0.118 V
E(pH=5) = -0.0592 × 5.0 = -0.296 V
E_cell = -0.118 – (-0.296) = 0.178 V
あるいは直接的に、E_cell = 0.0592 × (pH₂ – pH₁) = 0.0592 × 3 = 0.178 V と計算できます。
この問題はpH計測の原理を示す典型的な問題であり、pH差3単位が約178 mVの電位差に対応することが確認できます。
例題2-C:銀濃淡電池の設計
【問題】
起電力が 0.177 V の銀(Ag⁺/Ag、n=1)濃淡電池において、高濃度側が 1.0 mol/L のとき、低濃度側の Ag⁺ 濃度を求めよ(25℃)。
0.177 = (0.0592/1) × log(1.0 / c)
log(1/c) = 0.177 / 0.0592 = 2.99 ≈ 3.0
1/c = 10³ = 1000
c = 0.0010 mol/L
このように、起電力から逆算して濃度を求める問題も出題されます。ネルンストの式を逆向きに使う練習も重要です。
例題3:酸化還元反応を含む電池の計算
続いては、酸化還元反応を伴う電池全体の起電力計算問題を確認していきます。
半反応式の組み合わせと反応商の設定が問われる、やや難度の高い問題です。
例題3-A:亜鉛-銅電池(ダニエル電池)
【問題】
Zn | ZnSO₄(0.050 mol/L)|| CuSO₄(0.50 mol/L)| Cu の電池の起電力を求めよ(25℃)。
E°(Cu²⁺/Cu) = +0.34 V、E°(Zn²⁺/Zn) = -0.76 V
正極:Cu²⁺ + 2e⁻ → Cu E_正極 = 0.34 – (0.0592/2) × log(1/0.50) = 0.34 – 0.0296 × 0.301 = 0.34 – 0.0089 ≈ 0.331 V
負極:Zn → Zn²⁺ + 2e⁻ E_負極 = -0.76 – (0.0592/2) × log(1/0.050) = -0.76 – 0.0296 × 1.301 = -0.76 – 0.0385 ≈ -0.799 V
E_cell = 0.331 – (-0.799) = 1.130 V
標準起電力は 0.34 – (-0.76) = 1.10 V ですが、濃度の影響で実際の起電力は約 1.13 V となっています。
例題3-B:全反応へのネルンスト式の直接適用
先ほどの問題を、全反応にネルンストの式を直接適用して解くこともできます。
全体反応:Zn + Cu²⁺ → Zn²⁺ + Cu において n = 2。
Q = [Zn²⁺] / [Cu²⁺] = 0.050 / 0.50 = 0.10
E_cell = 1.10 – (0.0592/2) × log(0.10)
= 1.10 – 0.0296 × (-1)
= 1.10 + 0.030
= 1.130 V
両方の方法で同じ結果 1.130 V が得られ、全反応への直接適用の方が計算が簡便であることがわかります。
例題3-C:pH依存性を持つ酸化還元反応
【問題】
MnO₄⁻ + 8H⁺ + 5e⁻ → Mn²⁺ + 4H₂O(E° = +1.51 V)の反応で、[MnO₄⁻] = 0.10 mol/L、[Mn²⁺] = 0.010 mol/L、pH = 2.0 のときの電極電位を求めよ(25℃)。
[H⁺] = 10⁻² = 0.010 mol/L
Q = [Mn²⁺] / ([MnO₄⁻] × [H⁺]⁸) = 0.010 / (0.10 × (0.010)⁸)
= 0.010 / (0.10 × 10⁻¹⁶) = 0.010 / (10⁻¹⁷) = 10¹⁵
E = 1.51 – (0.0592/5) × log 10¹⁵
= 1.51 – 0.01184 × 15
= 1.51 – 0.178
= 1.332 V
H⁺ が8乗で入るため、pHの影響が非常に大きくなります。反応式に H⁺ が含まれる場合は必ず Q に含めることを忘れないようにしましょう。
まとめ
本記事では、ネルンストの式の例題と解き方について、半電池電位・濃度電池・酸化還元反応など多様なタイプの計算問題を通じて詳しく解説してきました。
計算問題を解くうえで最も重要なのは、電極反応式を正確に書き、反応商 Q を正しく設定することです。
固体・純液体の活量は1、H⁺ が含まれる反応ではその濃度を Q に必ず含める、複数の半反応を組み合わせるときは全反応への直接適用が便利、といったポイントを押さえれば、多くの問題を正確に解けるようになります。
また、25℃での近似係数「0.0592/n」を使いこなすことで、計算のスピードと精度が大きく向上します。
例題を繰り返し解いて解法の型を身につけることが、ネルンストの式の真の習得への最短ルートといえるでしょう。