電解質溶液を正確に扱うためには、イオン強度と活量係数の関係を理解することが不可欠です。
デバイ・ヒュッケルの限界則は、この関係を理論的に記述する重要な式です。
本記事では、活量・活量係数の意味、デバイ・ヒュッケル則の内容と適用範囲、計算方法についてわかりやすく解説していきます。
目次
イオン強度が大きくなるほど活量係数は理想値から外れる
それではまず、イオン強度と活量係数の基本的な関係について解説していきます。
電解質溶液では、イオン強度が高くなるほどイオン間の相互作用が強まり、活量係数γ±が理想溶液の値(1)から離れていきます。
理想溶液:γ±=1(イオン間相互作用なし)
希薄な実際の溶液:γ±<1(イオン間の静電引力の影響でエネルギーが低下)
高イオン強度の溶液:γ±の挙動が複雑になる(デバイ・ヒュッケル則の適用外)
活量と活量係数の定義
活量aとは、実際の溶液中でのイオンの有効濃度を表す熱力学的な量です。
活量係数γを用いると、活量はa=γcと表されます。
理想溶液ではγ=1なので活量は濃度cそのものとなりますが、実際の電解質溶液ではγ≠1となります。
平均活量係数とは
電解質の場合、陽イオンと陰イオンを個別に測定することが難しいため、平均活量係数γ±が使われます。
MX型電解質(1:1)の場合:γ±=√(γ₊γ₋)
一般式:γ±^(ν₊+ν₋)=γ₊^ν₊ × γ₋^ν₋
デバイ・ヒュッケルの限界則
続いては、デバイ・ヒュッケルの限界則について確認していきます。
これはイオン強度と活量係数の関係を理論的に記述する最も基本的な式です。
デバイ・ヒュッケルの限界則の式
log γ± = −A|z₊z₋|√I
A:デバイ・ヒュッケル定数(25℃の水溶液ではA≒0.509)
z₊、z₋:陽イオン・陰イオンの電荷数
I:イオン強度(mol/L)
この式は希薄電解質溶液(I<0.01 mol/L程度)でよく成立します。
イオン強度が大きくなるほどlog γ±が負になり、γ±が1より小さくなることを示しています。
デバイ・ヒュッケル定数Aの意味
定数Aは溶媒の誘電率εと温度Tに依存します。
25℃の水溶液ではA≒0.509という値がよく使われます。
温度が高くなると誘電率が低下し、Aが大きくなるため、より強い非理想性が現れます。
拡張デバイ・ヒュッケル則
より高いイオン強度(I<0.1 mol/L程度)に対しては、拡張デバイ・ヒュッケル則が使われます。
log γ± = −A|z₊z₋|√I / (1+Ba√I)
B:定数(25℃の水では約3.28×10⁹ m⁻¹)
a:イオンの有効接近距離(m)
活量係数の計算例
続いては、デバイ・ヒュッケル則を使った活量係数の計算例について確認していきます。
計算例①:NaCl水溶液
0.001 mol/LのNaCl水溶液のγ±を求めよ(25℃)。
I=0.001 mol/L(1-1型電解質)
log γ±=−0.509×1×1×√0.001=−0.509×0.0316≒−0.0161
γ±=10^(−0.0161)≒0.963
希薄溶液でもγ±が1より小さく、約3.7%の非理想性があることがわかります。
計算例②:CaCl₂水溶液
0.001 mol/LのCaCl₂水溶液のγ±を求めよ(25℃)。
I=(1/2)(0.001×4+0.002×1)=0.003 mol/L
log γ±=−0.509×|2×1|×√0.003≒−0.509×2×0.0548≒−0.0558
γ±≒0.879
2価のCa²⁺を含むため、NaClより大きく非理想性が現れます。
デバイ・ヒュッケル則の適用限界
| イオン強度範囲 | 適用できる式 |
|---|---|
| I<0.01 mol/L | デバイ・ヒュッケル限界則 |
| I<0.1 mol/L | 拡張デバイ・ヒュッケル則 |
| I>0.1 mol/L | ピッツァー式など高次の理論 |
まとめ
本記事では、イオン強度と活量係数の関係、デバイ・ヒュッケルの限界則の式・定数・計算例・適用限界について解説しました。
イオン強度が高くなるほど平均活量係数γ±は1から離れ、デバイ・ヒュッケルの限界則log γ±=−A|z₊z₋|√Iでその関係が記述されます。
電気化学・物理化学・生化学の計算で頻繁に使う重要な関係式ですので、ぜひ本記事を参考にマスターしてください。