pn接合の物理的な理解を深めるためには、「エネルギーバンド図(バンド図)」という概念が欠かせません。
バンド図を理解することで、pn接合における電子・正孔の振る舞いや、バイアスを加えたときの変化を、より根本的なレベルで把握することができます。
本記事では、pn接合のバンド図とエネルギー的な意味について、価電子帯・伝導帯・禁制帯・フェルミ準位・空乏層の形成といったキーワードを交えながら、わかりやすく丁寧に解説していきます。
半導体物性・電子デバイスを深く理解したい方にとって、重要な基礎知識をお届けします。
ぜひ最後まで読み進めてください。
目次
バンド図とは何か?結論からわかりやすく解説
それではまず、エネルギーバンド図(バンド図)という概念について解説していきます。
バンド図とは、半導体(や導体・絶縁体)の中で電子が取りうるエネルギーの範囲と、電子の分布状態を、横軸を位置(距離)、縦軸をエネルギーとして表したグラフのことです。
量子力学によれば、固体結晶中の電子が取りうるエネルギーは、特定の範囲(バンド)のみに限られており、バンドとバンドの間には電子が存在できない「禁制帯(バンドギャップ)」という領域が存在します。
バンド図を理解する最もシンプなイメージは「エネルギーの階段」です。電子はエネルギーの低いところ(階段の下段)から埋まっていき、すべての下段が埋まると上の段に移ります。バンド図では、電子が占めている一番上のバンドが「価電子帯」、その上の空きバンドが「伝導帯」、その間の電子が存在できない領域が「禁制帯(バンドギャップ)」となります。
pn接合のバンド図を理解することで、平衡状態での空乏層の形成・内蔵電位の発生、そして外部バイアスを加えたときのキャリアの動きを、エネルギーの観点から統一的に理解することができます。
価電子帯・伝導帯・禁制帯の基本
バンド図における基本的な3つの領域を整理しましょう。
【バンド構造の基本的な3つの領域】
価電子帯(Valence Band) 通常の状態で電子が充満している最上位のエネルギーバンド。価電子(共有結合に関与する電子)が存在する
禁制帯(Bandgap) 価電子帯と伝導帯の間の、電子が存在できないエネルギー範囲。バンドギャップとも呼ばれる
伝導帯(Conduction Band) 価電子帯の上に位置する空のエネルギーバンド。電子がここに存在すると自由に動き回れるため電気を運ぶことができる
半導体・導体・絶縁体の違いは、この禁制帯の大きさ(バンドギャップの幅)によって決まります。
禁制帯が大きいほど絶縁体に近く、小さいほど導体に近い性質を持ちます。
シリコンのバンドギャップは約1.1eVで、これが半導体としての特性を示す根拠となっています。
フェルミ準位の概念
バンド図において非常に重要な概念が「フェルミ準位(Fermi Level、記号:Ef)」です。
フェルミ準位とは、統計力学的に見て、そのエネルギー準位に電子が存在する確率が50%となるエネルギー値のことです。
フェルミ準位は、電子の充填状態・材料の電気的特性を示す重要な指標であり、バンド図においては価電子帯と伝導帯の間のどこかに位置します。
| 半導体の種類 | フェルミ準位の位置 |
|---|---|
| 真性半導体(不純物なし) | 禁制帯のほぼ中央 |
| n型半導体 | 禁制帯の中で伝導帯寄りの位置(伝導帯に近い方) |
| p型半導体 | 禁制帯の中で価電子帯寄りの位置(価電子帯に近い方) |
フェルミ準位の位置が、その半導体がp型かn型か、あるいは真性半導体かを示す重要な指標となっており、バンド図を読む際の基準となります。
エネルギー図でのキャリアの表現
バンド図において、電子と正孔はどのように表現されるのでしょうか。
電子は伝導帯の中に存在し、バンド図では伝導帯バンドエッジ(Ec)より上の位置に描かれます。
正孔は価電子帯の中に存在し(電子が抜けた空席として)、バンド図では価電子帯バンドエッジ(Ev)より下の位置に描かれます。
電子はエネルギーの低い方向(バンド図では下方向)に向かって「転がり落ちる」のに対し、正孔はエネルギーの高い方向(バンド図では上方向)に向かって「浮き上がる」というイメージで捉えるとわかりやすいでしょう。
pn接合の平衡バンド図
続いては、p型半導体とn型半導体が接合した後、平衡状態(外部電圧なし)に達したpn接合のバンド図について確認していきます。
接合によってバンド図がどのように変化するのかが、pn接合の特性を理解する核心です。
接合前のバンド図
接合前の状態では、p型とn型は分離した別々の物体として存在します。
p型半導体のフェルミ準位は価電子帯寄り、n型半導体のフェルミ準位は伝導帯寄りに位置しています。
2つを別々に並べてみると、フェルミ準位の高さが異なっています。
この「フェルミ準位の差」が、接合したときに電子・正孔の移動(拡散)を引き起こす、エネルギー的な原動力となります。
接合後・平衡状態のバンド図
p型とn型を接合すると、熱平衡状態では全体のフェルミ準位が一致するようにバンド全体が変形するという、重要な物理的原則が働きます。
【平衡状態のpn接合バンド図の特徴】
フェルミ準位(Ef)が接合全体を通じて一定(水平)になる
n型側のバンド全体(Ec, Ev)がp型側よりも高い位置にある(バンドの曲がり)
接合部(空乏層)でバンドエッジが滑らかに変化している(バンドベンディング)
内蔵電位がバンドエッジの高低差としてバンド図に現れる
このバンドの曲がり(バンドベンディング)の大きさが、そのまま内蔵電位(ビルトインポテンシャル)の大きさに対応しています。
バンド図で見ると、n型側の伝導帯が高く、p型側の伝導帯が低い位置にある「坂」のような形状になっており、この坂が電子にとっての「エネルギー障壁」として機能しています。
空乏層のバンド図での表現
接合部に形成される空乏層は、バンド図上ではどのように表現されるのでしょうか。
空乏層の領域では、フェルミ準位が禁制帯の中央から離れた位置に来るように見えます。
空乏層内では、フェルミ準位が伝導帯バンドエッジ(Ec)とも価電子帯バンドエッジ(Ev)とも大きく離れているため、この領域には電子も正孔もほとんど存在しないという事実が、バンド図上でも読み取れるのです。
バイアスをかけたときのバンド図の変化
続いては、pn接合に外部電圧(バイアス)を加えたときに、バンド図がどのように変化するのかを確認していきます。
バイアスによるバンド図の変化を理解することで、ダイオードの動作原理をより深く把握できます。
順方向バイアス時のバンド図変化
順方向バイアス(p側に正電圧、n側に負電圧)を加えると、バンド図にどのような変化が現れるのでしょうか。
外部電圧がかかることで、n型側のバンド全体が下がる(エネルギー的に低くなる)方向に変化します。
つまり、接合部のバンドの「坂」が低くなる、つまりエネルギー障壁(内蔵電位に対抗する電圧障壁)が低下するため、電子がn型側からp型側へ越えやすくなり、電流が流れるという動作がバンド図から直感的に理解できます。
フェルミ準位は、バイアスが加わることで単一ではなくなり、p側とn側で別々のフェルミ準位(擬フェルミ準位)が生じるとして扱われます。
逆方向バイアス時のバンド図変化
逆方向バイアス(p側に負電圧、n側に正電圧)を加えると、バンド図には順方向とは逆の変化が起きます。
n型側のバンドが全体的に上がる(エネルギー的に高くなる)方向に変化し、接合部のバンドの「坂」がさらに急になります。
これにより、電子がn型から p型へ越えるためのエネルギー障壁がさらに高くなり、電流は流れにくくなる(逆方向遮断状態)という動作が、バンド図から理解できます。
バンド図の実用的な読み方
バンド図を読む際の基本的なポイントをまとめましょう。
| 読み方のポイント | 意味 |
|---|---|
| フェルミ準位が水平 | 平衡状態(電流なし) |
| バンドが急な坂になっている | 内部電界が強い(空乏層が厚い) |
| 電子は坂の下に「転がる」 | 電子は伝導帯で低エネルギー方向に移動する |
| 正孔は坂の上に「浮く」 | 正孔は価電子帯で高エネルギー方向に移動する |
バンド図を「電子や正孔がエネルギー的に転がる向き」というイメージで読むことができるようになると、様々な半導体デバイスの動作をバンド図から直感的に理解できるようになるでしょう。
まとめ
本記事では、pn接合のバンド図とエネルギー図について、価電子帯・伝導帯・禁制帯・フェルミ準位の基本概念、接合前後の平衡バンド図の変化(バンドベンディング・内蔵電位の表現)、空乏層のバンド図での表現、順方向・逆方向バイアス時のバンド図の変化、バンド図の実用的な読み方まで幅広く解説しました。
バンド図とは、半導体中の電子が取りうるエネルギー範囲と分布を、横軸を位置、縦軸をエネルギーとして表したグラフであり、価電子帯・禁制帯・伝導帯とフェルミ準位が主要な要素となります。
pn接合では、平衡状態でフェルミ準位が一致するようにバンドが曲がり(バンドベンディング)、この曲がりが内蔵電位と空乏層の形成を表しています。
順方向バイアスでは障壁が低下して電流が流れ、逆方向バイアスでは障壁が高まって電流が遮断されるという動作が、バンド図から直感的に理解できます。
次の記事では、pn接合の空乏層について、その形成される理由と働きをさらに詳しく解説していきます。