工業・化学・食品・医薬・塗料など様々な分野で「粘度」という言葉が登場しますが、「単位がいくつもあって混乱する」「cpsとPa・sはどちらが正しいのか」「動粘度と絶対粘度の単位の違いがわからない」という疑問を持つ方は多いでしょう。
粘度の単位は歴史的な経緯から複数の単位系が混在しており、分野によって使われる単位が異なることも混乱の原因のひとつです。
粘度の単位を正確に理解し、異なる単位間の換算ができることは、製品の品質管理・プロセス設計・研究開発において非常に重要なスキルです。
本記事では、粘度の単位についてSI単位(Pa・s)・CGS単位(ポアズ:P・センチポアズ:cP)・動粘度の単位(m²/s・cSt)・単位換算の方法まで、わかりやすく体系的に解説していきます。
目次
粘度の単位の全体像:絶対粘度と動粘度の違いから理解する
それではまず、粘度の単位を理解するために欠かせない「絶対粘度(動粘性率)と動粘度(動粘性係数)の違い」から解説していきます。
粘度には大きく分けて絶対粘度(動粘性率:μまたはη)と動粘度(動粘性係数:ν)の2種類があり、これらは異なる物理量であるため単位も異なります。
絶対粘度と動粘度の基本的な違い
絶対粘度(μ・η):流体のせん断応力とせん断速度の比で定義される粘度。流体の「内部摩擦」の大きさを表す。単位はPa・sまたはP(ポアズ)。
動粘度(ν):絶対粘度を流体の密度で割った値。流体の「流れやすさ」を密度の影響も含めて表す。単位はm²/sまたはcSt(センチストークス)。
ν = μ / ρ(ρは密度:kg/m³)
エンジンオイルの粘度表示(例:10W-30)は動粘度で表されることが多く、食品・医薬・塗料などでは絶対粘度(cP:センチポアズ)が一般的に使われます。
どちらの粘度を使うかは分野・用途・測定方法によって異なるため、常に「どちらの粘度か」を確認することが重要です。
ニュートンの粘性法則:粘度の定義式
粘度の定義はニュートンの粘性法則に基づいています。
ニュートンの粘性法則
τ = μ × (du/dy)
τ:せん断応力(Pa:パスカル)
μ:絶対粘度(粘性係数)(Pa・s)
du/dy:せん断速度(速度勾配)(s⁻¹:毎秒)
この式からμ = τ / (du/dy) が導かれ、単位は(Pa)/(s⁻¹)= Pa・s となります。
この法則に従う流体をニュートン流体と呼び、水・空気・油など多くの一般的な流体がこれに該当します。
一方、グリース・塗料・血液・高分子溶液などせん断速度によって粘度が変化する流体を非ニュートン流体と呼び、取り扱いには特別な注意が必要です。
粘度単位の歴史的背景:CGS単位とSI単位の混在
粘度の単位が複数混在している歴史的な背景を知ることで、単位間の関係が整理できます。
かつて科学・工学ではCGS単位系(センチメートル・グラム・秒)が広く使われており、粘度の単位としてポアズ(P:Poise)が定義されました。
フランスの医師ジャン・ルイ・ポアズイユの名前に由来するポアズは、1 P = 1 g/(cm・s) と定義されます。
現在の国際標準であるSI単位系では粘度の単位はパスカル秒(Pa・s)であり、1 Pa・s = 10 P という換算関係があります。
水の絶対粘度が約1 mPa・s(20℃付近)という比較的覚えやすい値になることから、工業界ではmPa・s(ミリパスカル秒)またはcP(センチポアズ)が実用上非常に広く使われています。
絶対粘度の単位:Pa・s・P・cPの換算
続いては、絶対粘度(粘性係数)の単位とその換算について確認していきます。
絶対粘度の単位系は歴史的な経緯から複数存在しており、換算関係を正確に把握することが実務で非常に重要です。
Pa・s(パスカル秒):SI単位での表記
Pa・s(パスカル秒)は絶対粘度のSI単位です。
記号はμ(ミュー)またはη(イータ)で表され、ニュートンの粘性法則から導かれます。
1 Pa・s = 1 N・s/m² = 1 kg/(m・s) という関係があります。
Pa・sは大きな単位であり、水の粘度(約0.001 Pa・s)のような低粘度流体にはmPa・s(ミリパスカル秒)が使われることが多いです。
ポアズ(P)とセンチポアズ(cP):CGS単位系
ポアズ(P:Poise)はCGS単位系での絶対粘度の単位で、1 P = 1 g/(cm・s) と定義されます。
ポアズは大きな単位のため、実用上は1/100のセンチポアズ(cP)が広く使われます。
cPは水の粘度(20℃で約1.002 cP)が約1という覚えやすい値になることから、食品・化粧品・医薬・接着剤・塗料などの分野で標準的に使われています。
絶対粘度の単位換算
1 Pa・s = 10 P = 1,000 cP = 1,000 mPa・s
1 cP = 1 mPa・s(センチポアズとミリパスカル秒は数値的に等しい)
1 P = 100 cP = 0.1 Pa・s
例:ある油の粘度が50 cPであるとき、Pa・s単位での値は?
50 cP = 50 mPa・s = 0.050 Pa・s
cP(センチポアズ)=mPa・s(ミリパスカル秒)という等価関係は非常に重要で、SIへの移行が進む現在の工業界ではmPa・sの表記が増えていますが、同じ数値としてそのまま使えます。
主要流体の絶対粘度の目安
| 流体 | 絶対粘度(mPa・s=cP) | 温度 |
|---|---|---|
| 空気 | 約0.018 | 20℃ |
| 水 | 約1.002 | 20℃ |
| 牛乳 | 約2〜3 | 20℃ |
| 食用油(菜種油) | 約70〜80 | 20℃ |
| グリセリン | 約1,500 | 20℃ |
| はちみつ | 約2,000〜10,000 | 20℃ |
| 歯磨き粉 | 約70,000〜100,000 | 20℃ |
動粘度の単位:m²/s・St・cStの換算
続いては、動粘度(動粘性係数)の単位とその換算について確認していきます。
動粘度は流体の流れやすさを密度の影響も含めて評価する指標で、流体力学・パイプ流れ・潤滑油の評価において特に重要です。
m²/s(SI単位)とストークス(St)の関係
動粘度のSI単位はm²/s(平方メートル毎秒)で、記号ν(ニュー)で表されます。
CGS単位系ではストークス(St:Stokes)が使われ、1 St = 1 cm²/s と定義されます。
実用上は1/100のセンチストークス(cSt:centistokes)がよく使われます。
動粘度の単位換算
1 m²/s = 10⁶ cSt = 10⁴ St
1 St = 1 cm²/s = 10⁻⁴ m²/s
1 cSt = 1 mm²/s = 10⁻⁶ m²/s
便利な換算:1 cSt = 1 mm²/s(センチストークスはmm²/sと数値が等しい)
例:動粘度が100 cStの油を m²/s に換算すると?
100 cSt = 100 mm²/s = 100 × 10⁻⁶ m²/s = 1.0 × 10⁻⁴ m²/s
絶対粘度から動粘度を求める換算計算
絶対粘度(μ)と密度(ρ)がわかれば動粘度(ν)を計算できます。
動粘度の換算計算例
ある油の絶対粘度 μ = 80 mPa・s(80 cP)・密度 ρ = 900 kg/m³(0.9 g/cm³)の場合
ν = μ / ρ
SI単位で計算:ν = 0.080 Pa・s / 900 kg/m³ = 8.89 × 10⁻⁵ m²/s = 88.9 cSt
CGS単位で確認:ν = 80 cP / 0.9 g/cm³ = 88.9 cSt(一致)
cP(センチポアズ)をg/cm³(比重)で割るとcSt(センチストークス)が直接求まるという便利な関係が成り立ちます。
比重が1.0(水と同じ)の流体では絶対粘度(cP)と動粘度(cSt)の数値が等しくなります。
動粘度の主要流体の目安値
| 流体 | 動粘度(cSt = mm²/s) | 温度 |
|---|---|---|
| 空気 | 約15.1 | 20℃ |
| 水 | 約1.004 | 20℃ |
| ガソリン | 約0.5〜1 | 20℃ |
| エンジンオイル(10W-30) | 約65〜75(100℃) | 100℃ |
| グリセリン | 約1,180 | 20℃ |
粘度単位の総合換算表と実務での使い方
続いては、粘度単位の総合的な換算表と実務での活用方法について確認していきます。
複数の単位系を横断的に理解することで、異なる分野・規格・データシートの粘度データを正確に比較・活用できます。
絶対粘度・動粘度の単位換算総合表
| 単位名 | 記号 | 定義 | 換算値 |
|---|---|---|---|
| パスカル秒(SI) | Pa・s | 絶対粘度・SI単位 | =1,000 mPa・s =10 P |
| ミリパスカル秒 | mPa・s | 絶対粘度(実用SI) | =1 cP |
| ポアズ | P | 絶対粘度・CGS単位 | =0.1 Pa・s =100 cP |
| センチポアズ | cP | 絶対粘度・実用CGS | =1 mPa・s |
| 平方メートル毎秒(SI) | m²/s | 動粘度・SI単位 | =10⁶ cSt |
| ストークス | St | 動粘度・CGS単位 | =10⁻⁴ m²/s =100 cSt |
| センチストークス | cSt | 動粘度・実用CGS | =1 mm²/s =10⁻⁶ m²/s |
産業分野別の粘度単位の使われ方
産業分野によって慣用的に使われる粘度単位が異なることも理解しておくと実務で役立ちます。
石油・潤滑油業界ではcSt(センチストークス)が動粘度の標準単位として広く使われ、ISO粘度グレード(ISO VG 32・46・68など)も動粘度(40℃・100℃での cSt 値)で規定されています。
食品・医薬・化粧品業界ではmPa・s(またはcP)が絶対粘度の標準単位として使われます。
塗料・インキ・接着剤業界ではmPa・sのほか、フォードカップ・ザーンカップによる流出時間(秒)で粘度を表す現場実用単位も使われます。
高分子・プラスチック加工業界ではメルトフローインデックス(MFI)という溶融樹脂の流れやすさを表す独自の指標も使われています。
粘度単位の換算計算の実践例
換算問題:ある塗料の粘度が2,500 cPである。これをSI単位(Pa・s)と動粘度(cSt)に換算せよ。ただし密度は1.2 g/cm³とします。
①cP → Pa・s:2,500 cP = 2,500 mPa・s = 2.5 Pa・s
②絶対粘度 → 動粘度(cSt)
ν = μ / ρ = 2,500 cP / 1.2(g/cm³)= 2,083 cSt
(または ν = 2.5 Pa・s / 1,200 kg/m³ = 2.08 × 10⁻³ m²/s = 2,083 cSt → 一致)
このような換算計算はデータシートの粘度値を別単位で使いたい場合・異なるシステムで測定した値を比較する場合に不可欠です。
まとめ
本記事では、粘度の単位についてSI単位(Pa・s・m²/s)・CGS単位(P・cP・St・cSt)の定義・換算関係・絶対粘度と動粘度の違いまで幅広く解説してきました。
絶対粘度の単位はPa・s(SI)またはcP(実用CGS)で、1 cP = 1 mPa・sという等価関係が実務で非常に便利です。
動粘度の単位はm²/s(SI)またはcSt(実用CGS)で、1 cSt = 1 mm²/sという換算が基本です。
絶対粘度(cP)を密度(g/cm³)で割ると動粘度(cSt)が求まるという関係を覚えておくことで、現場での換算計算が素早くできます。
分野によって使われる単位が異なるため、常に「どの粘度か・どの単位か」を確認する習慣をつけることが、粘度データを正確に活用するための基本となるでしょう。