粘度は実験で測定するものというイメージが強いかもしれませんが、様々な物理法則や方程式を使って計算・推算することも可能です。
「ニュートンの粘性法則から粘度をどう計算するのか」「せん断速度と粘度の関係は」「流体力学的な式に粘度はどう登場するのか」という疑問を持つ方も多いでしょう。
粘度の計算方法を理解することは、流体工学・レオロジー・化学工学の問題を解くうえで欠かせないスキルです。
本記事では、ニュートンの粘性法則による基本的な粘度の計算式から、ハーゲン・ポアズイユ式・ストークスの法則・温度依存性の計算・非ニュートン流体のモデルまで、具体的な計算例とともにわかりやすく解説していきます。
目次
ニュートンの粘性法則:粘度計算の出発点
それではまず、粘度計算の根幹となるニュートンの粘性法則とその応用について解説していきます。
ニュートンの粘性法則は粘度の定義式そのものであり、すべての粘度計算はここから始まります。
ニュートンの粘性法則(粘度の定義式)
τ = μ × (du/dy) = μ × γ̇
τ:せん断応力(Pa)
μ:絶対粘度(Pa・s)
du/dy:速度勾配(せん断速度:γ̇)(s⁻¹)
粘度を求める形に変形すると:μ = τ / γ̇
つまり粘度は「せん断応力をせん断速度で割った値」として計算できます。
この関係式から、せん断応力τ(Pa)とせん断速度γ̇(s⁻¹)の2つが測定または既知であれば粘度μを計算で求めることができます。
回転式粘度計ではトルクからせん断応力を・回転速度からせん断速度を求めて、その比から粘度を算出するという流れがこの公式に直接対応しています。
せん断速度の計算例:代表的なせん断流れ
せん断速度(γ̇)はさまざまな流れ場で計算できます。
①平行板間のクエット流(Couette Flow)
γ̇ = U / h
U:上板の移動速度(m/s)、h:板間距離(m)
例:板間距離1mm・上板速度10 mm/sの場合:γ̇ = 0.01 / 0.001 = 10 s⁻¹
②回転粘度計(同軸二重円筒)のせん断速度
γ̇ ≒ ω × r_i / (r_o − r_i)(内外径差が小さい場合の近似)
ω:角速度(rad/s)、r_i:内筒半径、r_o:外筒半径(m)
③コーン・プレート粘度計のせん断速度
γ̇ = ω / θ(コーン角度θが小さい場合)
ω:角速度(rad/s)、θ:コーン角(rad)
ニュートンの粘性法則を使った粘度計算例
計算例:粘度計測定結果から粘度を求める
コーン・プレート型粘度計(コーン角θ = 2° = 0.0349 rad)で10 rpmで回転させたとき、測定されたトルクTが0.5 mN・mだった。コーンの半径R = 25 mm の場合の粘度を求めます。
せん断速度:γ̇ = ω / θ = (10 × 2π / 60) / 0.0349 = 1.047 / 0.0349 ≒ 30.0 s⁻¹
コーン・プレートのせん断応力:τ = 3T / (2πR³) = 3 × 0.0005 / (2π × 0.025³)
τ = 0.0015 / (9.817 × 10⁻⁵) ≒ 15.3 Pa
粘度:μ = τ / γ̇ = 15.3 / 30.0 ≒ 0.51 Pa・s(510 mPa・s)
ハーゲン・ポアズイユ式:管内流れから粘度を求める
続いては、細管(パイプ)内の流れから粘度を計算するハーゲン・ポアズイユ式を確認していきます。
キャピラリー粘度計の測定原理の基礎となる重要な計算式です。
ハーゲン・ポアズイユ式の導出と意味
ハーゲン・ポアズイユ式(Hagen-Poiseuille Equation)は、円形断面の直管内を層流状態でニュートン流体が流れるときの流量と圧力損失の関係式です。
ハーゲン・ポアズイユ式
Q = (πR⁴ΔP) / (8μL)
Q:体積流量(m³/s)
R:管の半径(m)
ΔP:管の両端の圧力差(Pa)
μ:流体の絶対粘度(Pa・s)
L:管の長さ(m)
粘度を求める形に変形:μ = (πR⁴ΔP) / (8QL)
この式から、管の半径・長さ・圧力差・流量がわかれば粘度を計算できることがわかります。
キャピラリー粘度計は重力(静水圧差)を圧力差ΔPとして利用し、流出時間から流量Qを求めて動粘度を算出しています。
キャピラリー粘度計での動粘度計算
キャピラリー粘度計による動粘度の計算例
粘度計定数K = 0.1 mm²/s²(機器固有の校正定数)の場合
測定した流出時間t = 300 s の流体の動粘度は?
ν = K × t = 0.1 × 300 = 30 mm²/s = 30 cSt
密度ρ = 0.85 g/cm³ の場合の絶対粘度は?
μ = ν × ρ = 30 × 0.85 = 25.5 cP = 25.5 mPa・s
管内流れの圧力損失・流速の粘度を使った計算
配管設計では粘度を使って圧力損失や必要ポンプ動力を計算することが多くあります。
層流(Re<2,300)における管内圧力損失の計算(ダルシー・ワイスバッハ式+ムーディー図)
層流の場合:摩擦係数 f = 64 / Re
圧力損失:ΔP = f × (L/D) × (ρU²/2)
ΔP = (64/Re) × (L/D) × (ρU²/2) = 128μLQ / (πD⁴)(ハーゲン・ポアズイユと一致)
例:内径D = 20 mm・長さL = 10 m・流量Q = 0.5 L/min の油(μ = 50 mPa・s・ρ = 870 kg/m³)の圧力損失
Q = 0.5/60/1000 = 8.33 × 10⁻⁶ m³/s、R = 0.01 m
ΔP = 128 × 0.05 × 10 × 8.33 × 10⁻⁶ / (π × (0.02)⁴)
ΔP ≒ 5,300 Pa ≒ 5.3 kPa
粘度の温度依存性の計算式:アレニウス式とWLF式
続いては、粘度の温度依存性を計算するための代表的な式を確認していきます。
温度変化による粘度の変化を予測する計算は、プロセス設計・材料評価・製品処方設計に欠かせません。
アレニウス型粘度式:低分子液体への適用
多くの低分子液体(油・溶剤・水など)では粘度の温度依存性がアレニウス型(指数関数)で近似できます。
粘度のアレニウス式
μ = A × exp(Ea / RT)
A:前指数因子(流体固有の定数)
Ea:流動活性化エネルギー(J/mol)
R:気体定数(8.314 J/mol・K)
T:絶対温度(K)
温度上昇でEa/RTが減少して粘度μが指数関数的に低下します。
2温度での粘度から活性化エネルギーを推算する式:
ln(μ₂/μ₁) = (Ea/R) × (1/T₂ − 1/T₁)
WLF式:高分子・ガラス状材料への適用
高分子材料(ポリマー溶融体・高分子溶液)の粘度温度依存性にはWLF(Williams-Landel-Ferry)式が広く使われます。
WLF式
log(μ/μ_ref) = −C₁(T − T_ref) / [C₂ + (T − T_ref)]
T_ref:基準温度(通常ガラス転移温度Tg付近)(℃またはK)
μ_ref:基準温度での粘度(Pa・s)
C₁・C₂:材料固有の定数(多くの高分子でC₁ ≒ 17.44・C₂ ≒ 51.6)
WLF式はTgより高い温度域(Tg〜Tg+100℃)で特に精度が高い。
WLF式はゴム・プラスチック・塗料の高分子成分・接着剤の処方設計や加工温度の決定に活用されています。
金属の粘度計算:ドルーデモデルの応用
溶融金属の粘度も計算で推算することができます。
溶融金属の粘度はアンドレードの式(アレニウス型の変形)でよく近似されます。
溶融金属の粘度推算(アンドレードの式)
μ = A × M^(1/2) × T_m^(1/2) × exp(B × T_m / T) / V^(2/3)
A・B:定数(A ≒ 1.7 × 10⁻⁷・B ≒ 2.65)
M:原子量(g/mol)、T_m:融点(K)
T:測定温度(K)、V:モル体積(cm³/mol)
溶融鉄(1,550℃)の推算粘度:約4〜6 mPa・s(実測と比較的よく一致)
非ニュートン流体の粘度計算モデル
続いては、非ニュートン流体の粘度を計算するための代表的な流動モデルを確認していきます。
非ニュートン流体では粘度がせん断速度によって変化するため、単一の粘度値ではなく流動モデルの式で表します。
べき乗則モデル(Power Law Model)
最も広く使われる非ニュートン流動モデルがべき乗則モデル(オストワルド・デ・ワーレモデル)です。
べき乗則モデルの式
τ = K × γ̇ⁿ
見かけ粘度:η = τ / γ̇ = K × γ̇^(n−1)
K:稠度係数(Pa・sⁿ)
n:流動指数(無次元)
n = 1:ニュートン流体(η = K = 一定)
n < 1:擬塑性流体(シェアシンニング):せん断速度増加で粘度低下
n > 1:ダイラタント流体(シェアシックニング):せん断速度増加で粘度増加
例:K = 10 Pa・sⁿ・n = 0.5 の擬塑性流体のγ̇ = 100 s⁻¹での見かけ粘度
η = 10 × 100^(0.5−1) = 10 × 100^(−0.5) = 10 / 10 = 1.0 Pa・s(1,000 mPa・s)
ビンガムモデル:降伏応力流体の計算
降伏応力(Yield Stress)を持つ流体(グリース・マヨネーズ・コンクリートスラリーなど)にはビンガムモデルが使われます。
ビンガムモデルの式
τ = τ₀ + μ_p × γ̇(τ > τ₀ のとき流動)
τ₀:降伏応力(Pa)
μ_p:塑性粘度(Pa・s)
降伏応力τ₀を超えない限り流体は変形しません(固体的な振る舞い)。
例:τ₀ = 20 Pa・μ_p = 0.1 Pa・s のビンガム流体がγ̇ = 50 s⁻¹で流れるときのせん断応力
τ = 20 + 0.1 × 50 = 20 + 5 = 25 Pa
キャリー・ヤシェル(Carreau-Yasuda)モデル
実際の高分子溶液・ポリマー溶融体などでは、低せん断速度域でニュートン的な挙動を示し高せん断速度域でべき乗則的な挙動を示します。
この両領域をまたいで精度よく粘度を記述するのがキャリー・ヤシェルモデルです。
キャリー・ヤシェルモデル(簡略形)
η(γ̇) = η_∞ + (η₀ − η_∞) ×
^((n−1)/2)
η₀:ゼロせん断粘度(低せん断域での粘度)(Pa・s)
η_∞:無限大せん断粘度(通常0または非常に小さい値)
λ:緩和時間(s)
n:べき乗則指数
このモデルは低せん断でη ≈ η₀(ニュートン的)・高せん断でベき乗則に漸近するという実際の高分子流体の挙動をよく再現します。
まとめ
本記事では、粘度の計算方法についてニュートンの粘性法則・ハーゲン・ポアズイユ式・温度依存性の計算・非ニュートン流体モデルまで幅広く解説してきました。
粘度計算の基本はニュートンの粘性法則μ = τ/γ̇であり、せん断応力とせん断速度の比として粘度が定義されます。
ハーゲン・ポアズイユ式は配管内の層流圧力損失・キャピラリー粘度計の動粘度計算に不可欠な基本式です。
温度依存性にはアレニウス式(低分子液体)・WLF式(高分子材料)が使われ、それぞれの適用範囲を理解して使い分けることが重要です。
非ニュートン流体にはべき乗則・ビンガムモデル・キャリー・ヤシェルモデルなどのレオロジーモデルが使われ、せん断速度に依存した粘度変化を計算で表現できます。
粘度計算の理論と実践を組み合わせることで、流体を扱うあらゆる工学・研究の場面での問題解決力が大きく向上するでしょう。